Anorak citylights

レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

Still Dreams インタビュー

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みんな夢から覚めてしまった。あんなに夢中だったくせに。
ドリームポップが一般的な認知を獲得したのは1980年代のこと。Cocteau Twinsがそのパイオニアとして定着しているが、思えばVelvet UndergroundSyd Barrettの時代から連綿と続くムードであったように思う。
美しいメロディと酩酊を誘う幽玄な音世界は時を経る毎に緩やかに、時に大胆に変貌を遂げ、2000年代後半におけるCaptured Tracksの躍進でもってひとつの到達点を作り出した。
Juvenile Juvenile/Wallflowerは日本におけるドリームポップのブライテスト・ホープであり、ひとつの完成形であったように思う。各々が素晴らしいアルバムを1枚ずつ残し、やがてバンドは深いリヴァーブの向こう側に消えた。
しかし、バンドのメンバーであったRyutaとMaayaは夢から覚めなかった。
2人がドリームポップの先に見つけた新たなドリームとポップ、それはシンセサイズされた鍵盤と共に聴こえてくる。夢の名はStill Dreams、2016年に結成された。音源がBandcampにて公開されるや否や瞬く間に評判を呼び、海外の音楽ブログやバンドがフックアップ。ただのリバイバルでは全然ない、煌めきと驚きに満ちたシンセサイザーの主旋律と至極のメロディ。ここではないどこか、瞬間と永遠、宇宙の果てに佇む本棚の裏側。みんな夢から覚めてしまった、でも彼らは新しい夢を見ているんだ。

ということでお待たせしました。Elefant RecordsからニューEp「Make Believe」をリリースしたStill DreamsのRyuta氏インタビューです!
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Still DreamsはJuvenile JuvenileのメンバーであるRyutaさんとMaayaさんが2016年にスタートされたユニットです。
Still Dreams立ち上げ時の青写真について教えてください。

Ryuta:Juvenile Juvenileはメンバーの大半が大学生の時に始めたバンドでした。
やがてメンバー各々が社会人になり、仕事などの都合により練習や曲作りをする時間が制限され、活動ペースはかなり控えめになっていました。
そんな中、僕とMaayaは2016年に結婚して一緒に住むようになったので、自宅内でバンドの意思決定と曲制作を完結できる音楽活動をスタートさせました。それがStill Dreamsです。
MaayaはJuvenile Juvenileではドラムを担当していましたが、Still Dreamsではボーカルを担当しています。80'sポップスにおける、自分の好きな要素をフィーチャーしたような曲を作りたいと考えています。

おふたりがJuvenile Juvenileとしてのバックグラウンドを持っていること、とても重要であると考えます。
Still Dreamsはシンセポップと呼ばれる音楽にカテゴライズされるかと思いますが、ボーカルの処理や各パートのエフェクト等作曲における要所要所に、[ドリームポップ以降]の感覚を感じるんですよね。そこが他のシンセポップと呼ばれるバンドとの大きな違いであり、単なる80'sのリバイバルになっていない一因かなと。

Ryuta:僕が音楽を始めたころから聴いているドリームポップ・チルウェイブなどの逃避的な音像は、自分の根幹になっています。その点ではStill DreamsとJuvenile Junvenileは地続きかもしれません。
ソングライティング面でも、Still Dreamsの曲はライブでの再現を想定せず音作りをしていますが、まずギターで曲の骨組みを描くところは共通していますね。

シンセポップの持つある種の華やかさ煌びやかさに加え、逃避的なニュアンスも多分に含んでいますよね。Still Dreamsを始める上で、モデルにしたバンドはありますか?

Ryuta:イメージしていたモデルは特にないのですが、Summer CampやTennis、Peaking Lightsといった夫婦デュオはビジュアルのバランスなどで参考にすることがあります。
特にPeaking Lightsですが、僕達とは方向の違う逃避的な音楽を長年作り続けていて、遂には2人で解脱しそうな勢いがあるので憧れます。
音楽面では、生楽器と電子楽器の融合のさせ方やシンセやドラムの音色で思い切りNew Orderを参照した曲を定期的に作りたくなります。
ボーカルラインはKero Kero Bonitoのポップセンス、同じElefant Records所属のThe Perfect Kissのピュアなニュアンスを取り入れられたらと思っています

音源製作を活動のメインにしているのも、結成当初からのアイディアなのでしょうか?
Ryuta:そうですね、メンバーも2人なので基本的に家で音源を作り続けるという活動がメインです。
音楽的にも、肉体性が強いものではないので、家や移動中に聴いてもらうことを想定して作っています。
ライブでどう表現するかを考えていないので、作曲における制約は少ないんですよ。今のところ曲はスムーズに作り続けられている状態です。

ありがとうございます。作曲のプロセスについても教えてください。勝手なイメージですが、Ryutaさんが曲のほぼ全てを作り込み、Maayaさんは歌に徹してるイメージです。俗っぽい例えですが、きゃりーぱみゅぱみゅ中田ヤスタカのようなスタイルを想像します。
Ryuta:仰る通り、曲は僕が作り込んでMaayaが歌うというスタイルです。
基本的には僕がトラックを作って仮ボーカルを入れたものをMaayaに渡し、後日Maayaのボーカルを録音するという流れです。
ただ僕にプロデューサーという意識はなく、Maayaのファン目線なんですよ。Maayaに歌ってほしいメロディと歌詞を頑張って作っているという感じですね

作詞もRyutaさんが手掛けているとの事ですが、やはり英詞への拘りがあるのでしょうか?
Ryuta:英語に拘りがあるという訳ではないのですが、2人とも関西人で歌詞に適した日本語を使うのに慣れていないという事と、日本語の曲を聴かなくなるにつれ、歌詞の作り方も音へのはめ方も分からなくなってしまったんです。
それでも前に1度だけ日本語の歌詞を書いた事があるんですが、友達に「校歌っぽい」と言われたので、もうきっぱり諦めました!

少し話が戻りますが、今まで3枚の作品が出ています。それぞれCD、カセット 、12インチ アナログと別々のフォーマットです。これは意図されているのでしょうか?
Ryuta:あえて別々のフォーマットにした訳ではないです。ただ、中身やジャケットに合うフォーマットでリリースしたいとは常々考えています。
1st「Theories」は自主配信でリリースした後、Flake RecordsのDawaさんにCDでのリリースの話を提案してもらって実現しました。
2nd「Lesson Learned」は収録曲が全て完成した時点で、Miles Apart Recordsの村上さんにカセットテープでのリリースをお願いしました。
そして今回のアルバム「Make Believe」は当初10インチでのリリース予定だったんですが、10インチの収録分数を大幅に上回ってしまったので、結果的に12インチでのリリースということになりました。

やはりフィジカルでリリースするという事に拘りがあるのでしょうか?
Ryuta:ありますね。サブスクなどのデジタルフォーマットは新しいものを聴いていくには良いツールですが、新しいものがどんどん更新されて、好きだったのに思い出すこともなくなってしまう作品も出てきてしまいます。
フィジカルは実際に自分の家に置けて、棚を見ると定期的にその作品のことを思い出せるという安心感があるので、大切な作品は手元に持っておきたいと思っています。自分たちの作品も時間が経ってからも時々思い出してほしいので、出来るだけフィジカルでもリリースしたいです。

サブスクによる過剰な供給によってある種のインフレが起き、消費のサイクルが早まっているようには感じます。もちろんサブスクはサブスクで便利に違いないのですが、Still Dreamsには是非これからもフィジカルのリリースを求めたいと勝手ながら思っております。
アートワークへの拘りも感じますが、どのようにディレクションされているのでしょうか?

Ryuta:アートワークに関しては、普段からコラージュアートやイラストを見るのが好きで、instagramのタグから色々なアーティストの作品をチェックしているんです。その中でStill Dreamsのイメージに合うものがあれば、コンタクトを取って使用許諾をもらうという形でやっていました。
前2作はそういう方法でしたが、新譜のアートワークは異なります。KNN.5さんというアーティストにいくつかのイメージを伝え、アートワークを新たに書き下ろしていただきました。

今回のアートワークは前2作とテイストが違って印象的です。タイトルのフォントに至るまでこだわりを感じました。
そして、実は個人的に1番の興味事でもあるのですが、Elefant Recordsからのリリースに至った経緯も詳しく教えてほしいです。
Elefant Recordsはインディーポップリスナーにとってかなり重要なレーベルだと思うんですよ。僕もずっとファンで、年に何枚もレーベルのレコードを買っています。

Ryuta:リリースが決定したのは2020年の6月ですね。
随分前の話なんですが、僕たちの曲のミックス・マスタリングをしてくれているPictured ResortのKojiがThe Perfect Kissのことを教えてくれて、Still DreamsとElefant Recordsの親和性を指摘してくれていたんです。
それを覚えていたので、元々EPとして自主リリース予定だった6曲が完成した時点で、Elefant Recordsに音源を送りました。
Elefant Recordsのデモサブミットのページは「写真とかバイオグラフィーは送らなくていい。大事なのは音楽なので曲だけ送ってくれ」みたいなステイトメントが書いてあってかっこよかったです。
ただ、返信が来るとも考えていなかったので、自主でリリースする準備も平行して進めていました。
しばらくして、Elefant Recordsからメールが入り、正式なリリースのオファーがありました。あわてて自主リリース予定を取り消しましたね。
レーベル側は「とりあえず8曲入りのミニアルバムをLPでリリースしたい」と言ってくれたので、本編の8曲+デジタルシングルのカップリング4曲の合計12曲に向けて、すぐに追加の曲を作り始めました。

Elefant Recordsには様々なタイプのバンドがいますけど、ブレずに根底にあるのは「良い曲を書く」という点だと思っているので、今回のリリースに伴うエピソードにはグッときます。従前からElefant Recordsのレコードは聴かれていたのでしょうか?

Ryuta:僕は熱心にElefant Recordsを追っている訳ではなかったんですが、好きになったバンドを調べてみると、結果的にElefant Recordsからリリースされていることが多かったです。
レーベルの中で好きなバンドはCamera ObscuraやThe School、Iko Cherieなど多数いるのですが、特に好きな作品はAlpaca Sportsの"When You Need Me The Most"です。
彼らが来日した時は僕が参加していたWallflowerで彼らのバックバンドをさせてもらったこともあり、思い出深い1枚です。
あとはElefant Recordsと関わるようになって知ったAxolotes Mexiacanosの"Salu2"はかなり衝撃でした。
色んなスタイルの曲をやりつつ、真ん中に1本ポップなボーカルがズドーンと入っていることで統一感もあり、久しぶりにくらったという感じです。

挙げていただいたバンドはどれも本当に素晴らしいですよね。そこにYeaningも加えたいです。Joe Mooreは本当に素晴らしいソングライターだと思います。
あとは2019年に出たtennis club、2020年に出たAiko El Grupoはオススメなんで未聴であれば是非。
Elefant Recordsはフィジカルへの取り組みも素晴らしいレーベルなので、Still Dreamsとのシナジーは大きいと考えます。

Ryuta:今回のレコードも手触りや発色が本当に良くて、Elefant Recordsのフィジカルへの熱量を強く感じました。

Elefant Recordsのバンドについてお話いただきましたが、日本のバンドでシンパシーを感じるバンドはいますか?
Ryuta:日本のバンドでシンパシーを感じるのはPictured Resortです。Pictured Resortは僕たちのエンジニアもやってくれているKojiのプロジェクトです。
僕らがStill Dreamsと名付けて、夢の中に見出している一種の逃避先と、KojiがPictured Resortと名付けた心象風景上のリゾートに見出しているものには共通した部分があると思います。
18歳の時に大学で知り合ってから長い付き合いであり、今も近所に住んでいてよく話すので、歌詞のテーマに共感できるというのもあります。

RyutaさんとKojiさんが見出だしている心象風景にあるというユートピア、興味深いです。
俗世からの逃避的なニュアンスは確かに歌詞の一端からも感じることができますし、サウンドもそれを後押しするようにドリーミーなニュアンスですよね。例えば社会や政治、実生活における様々な問題が、作詞やソングライティングに影響を与えることはありますか?

Ryuta:何か個人的や社会的な問題が起こったら、曲を作りたくなることはありますが、それは問題に対処しようという気持ちでは全然なくて、その問題を考えないように全然関係のないテーマで曲を作って、頭の中を埋めてしまいたいと動機なんです。直接的に現実の出来事とリンクした曲を作るということはほとんどないですね。
Ryutaさんにとって音楽を聴いたり作ったりする一連そのものに逃避的な意義を見出だしている節があるということですね。それって凄くチルウェイブ的だなーと感じます。

Ryuta:たしかに音楽自体が逃避になっているんだと思います。日常のオンとオフも自分の好きな音楽がかけられる場かどうかが大きいですよね。
映画や文学など、音楽以外の分野から影響を受けることはありますか?
Ryuta:本で言うと、ポール・オースターの小説はすごく好きです。彼の作品に「物語の中で生きる幸運、架空の世界で生きる幸運に恵まれた人にとって、この世界の苦しみは消滅します。物語が続く限り、現実はもはや存在しないんです。」というラインが出てくるのですが、この感覚に創作上の影響を受けています。自分の作品も他の人にそこまで思わせるような作品にしたいと思って大事にしています。
あとはゲームが好きですね。
特にドットやポリゴンのインディーゲームをよくプレイしていて、SF感や80's感に影響を受けて歌詞の世界観の下敷きにすることがあります。

文学やゲームについて明るくないのですが、僕もポール・オースターの作品に触れてみようと思います。最後に、今後のStill Dreamsのビジョンについても教えてください。

Ryuta:多分自分たちの核みたいなものはずっと変わらないので、それをブラッシュアップし続けていきたいです。
どういう形になるかまだ分かりませんが次回作も出来てきているので、早めに届けられるよう準備していきます。
もう少し大局的な話で言うと、Still Dreamsとして2人が活動できる時間をもっと長くしていきたいという目標があります。どうしても時間的な制約で活動が限られてしまうので、少しずつでも長くしたいと思います。
今はコロナでそれどころではありませんが、将来的にはライブも沢山やっていきたいです。
音源製作主体と言ったものの、やっぱりバンドで曲を演奏するのはやっぱりとても楽しいです。今はMariana in our HeadsやJuvenile Juvenileのメンバーがサポートしてくれているので、コロナがある程度収まった後に向けたバンドセットでの曲を詰めているところです。
リスナーとしてもライブを見に行くのが好きなので、本当に早く元通りになって欲しいなと思います。

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Gale boetticher橋本くんインタビュー

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自己嫌太郎ライジング。over head kick girlをキミは覚えているか。綻びさえ美しさに変える激情のソングライティングと歌唱でライブハウスの隅から世界に放たれたそれは奴らへのカウンターパンチにはギリギリ至らなかったものの、心に茨を持つ全てのパンクスに届き、確かな熱情を生んだ。
バンドのフロントマンであった橋本は人混みに流されて変わっていくそれを遠くで叱りつつ、東京の喧騒を離れ出身地である札幌へと帰った。仕事を辞め、作曲も辞め、自堕落な生活の中で見付けた新たなる希望こそ、彼のニューバンドとなるGale boetticher(ゲイルベティカー)だ。
札幌を中心としたライブの好評ぶりは遠く離れた東京にも聞こえてくる。曲もやはり抜群に良いらしい。1日も早い音源のリリースが待たれる中、満を持してimakinn recordsからファースト7インチが発売となる。
over head kick girlで聴く事のできた超サッドなメロディックパンク一辺倒では勿論なく、歪な雑食性とルサンチマンの爆発はパンクファン以外の心もアプローチするに違いない。
永遠に思える自粛の最中、全人類が部屋で膝を抱える今こそ彼の歌はよりリアルに響くことだろう。
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橋本くんが東京から札幌に帰ったのは確か2016年ですよね。

橋本:東京から札幌に帰ったのは2016年の秋頃です。理由としては、メンタル面での不調が大きくて。ほぼ強制送還みたいな形で札幌に帰りました。

札幌に帰ってからはどんな生活を送っていたんですか?

橋本:帰ってから半年間は毎日ボーっとゲームだけしていました笑 本当に無でしたね。
たまに友達に会ったりしてましたけど、自分の目がバキバキ過ぎたらしく恐れられてましたね。久しぶりにお会いした安孫子さん(KiliKiliVilla)にも目がヤバイって爆笑されてました笑

狂人慣れしてる安孫子さんでもビビるって凄いですね笑 メンタルがきついと、他者とのコミュニケーションもかなりしんどくなります。バンドをやりたい、続けたいという気持ちは橋本くんの中にあったんですか?
橋本:またバンドやるべきかは悩んでましたけど、昔に比べると音楽への熱がそれほど無くなっていたのかもしれません。

そこからどう奮起してGale boetticherの結成に至るのでしょうか?

橋本:帰省してから約1年後の2017年冬前くらいから、ちょっとずつ自分が活発になっていきました。
札幌の友達とか先輩とかと呑むようになって、そういう時にバンドやれって結構言われてて。
それで亀山さん(DEAD FISH BOYS)とアキトチ(the sleeping aides and razorblades)と呑んだ時、ふたりと色々話して新しくバンドを組む決心をしました。その場でアキトチにベースもお願いして。

over head kick girlの方をガンガンやるって選択肢はなかったんですか?

橋本:その選択肢も最初はあったんですけど、メンバーのみんなが今組んでるバンドがうまくいってるし、邪魔もしたくなかったんですよね。

なるほど。Gale boetticherをやる上での青写真はあったのでしょうか?

橋本:いえ、なかったです笑 自分自身好みとかやりたいことが切り替わるスパンがめちゃ早いので、曲を作ってても統一感がまったくないのが悩みどころではあります。

Gale boetticherサウンドの中心はやはりサッドメロディックパンクだと思うんですよ。そこに様々なサウンドの要素が注入され、突き当たり多い山道的な展開が施され、橋本くん節としかいえないパンクロックに仕上がっているんですよね。
曲は原型を橋本くんが決めて、スタジオで煮詰めるスタイルですか?

橋本:マジでサッドにしようと言う意識は皆無なんですけど、なんか最終的に変な感じになっちゃうんですよね笑 理路整然としない感じが性格出てるなーと思います。作曲は、自分がめちゃめちゃ難産型になってしまったので、自分で作ってパッと出来た原型をみんなとスタジオで合わせて、それを持ち帰ってまた考えてスタジオで合わせるの繰り返しみたいな感じですね。

最近over head kick girlのアルバムを聴き直してるんですが、超やられてるんです。展開の面白さとかメロディの良さとか全部初期衝動でぶっ潰して疾走しちゃう感じ。あれは歳を重ねるとなかなか出せないかもですよね。

橋本:自分でも今聴くと、よくこんなの思いつくなと思ったりする時あります笑 今はあの頃みたいには曲が出来なくて、歳とってからはどんな風に曲作ってくべきなんだろうって結構考えます。

なるほど。どんなバンドや音楽からインスピレーションを受けてるんですか?

橋本:今の好みはLa Vida Es Un Musというレーベル界隈の現行のハードコアバンドですね。あといまだにちゃんとdead broke records 、drunken sailorあたりは追ってます。バンドへの影響という面ではこの辺のレーベルは結構あると思います。

Gale boetticherという風変わりなバンド名の由来についても教えてください。

橋本:バンド名については、アキトチと二人で話し合って決めました。本当はXoて書いて糞って呼ばせるバンド名が良かったんですけど、アキトチが全拒否したので笑 2人の共通項的なの探していたら、Breaking badっていう海外ドラマがお互い好きなことに気付いて。Gale boetticherはそこに出てくる科学者の名前なんですよ。で、拝借しました。なので、エゴサすると博士の方ばかりヒットして全然僕らの情報に当たらなくて。バンド名変えたいっていつも思ってます笑

アキトチさん以外のメンバーについても教えてください。

橋本:当初は3ピースでやってて、ドラムはのぶお(Nobody Celebrates My Birthday)にやってもらっていました。今は佐藤くん(The Roofdogs)がドラム叩いてくれてます。ギターはハットリ(The Roofdogs)という奴に弾いてもらってます。そもそも自分がギター下手過ぎて、曲作っても全然良い感じにならなくて。アキトチ経由でギターのハットリを勧誘した感じです。

imakinn recordsからリリースに至る経緯はいかがでしょう?

橋本:imakinn recordsから出しているcontrolが札幌に来た時に、レーベルオーナーのイマキンさんも一緒に札幌に来ていまして。ちょうどそのタイミングで自分たちも自主から出す予定で音源を録っていて、打ち上げでイマキンさんにその話をしたんです。それがきっかけになり、imakinn recordsからリリースする運びになりました。まあ、僕がだらしなくて録音に半年くらいかかりましたが‥泣

録音については当初から3曲入りを目指していたんでしょうか?

橋本:レコーディング時点では7曲くらいあって、選定基準については単純に自分が好きな順で決めました。

特にA面は曲の繋がり含めて最高だと思います。今回のリリースは何気に橋本くんにとって初の7インチですよね。

橋本:やっと7インチ童貞喪失できました笑 仕上がりも自分自身の反省点とかは結構あるのですが、次への宿題という感じです。せっかくのレコードなので、デザインもこだわりました。

アートワークについても教えてください。

橋本:アートワークに関しては、knapsackというバンドのアルバムみたいな雰囲気を目指していたんです。そしたらイマキンさんがOffice Voidsのゆうまさんに依頼をかけてくれて。ジャケのイメージも「物塗れの部屋」とだけ伝えたら、めちゃくちゃ最高な感じで仕上げていただけました。
ラベルも我々に似つかわしくないほどポップで最高です。

早く現物欲しいです。3枚くらい買います。アルバムの構想は既にあったりするんですか?

橋本:バチバチに曲が出来たらアルバム出してみたいなと言う気持ちはあります。
それよりも、まだまだ自分のダサい曲をどんどん淘汰していかないとダメですね。いかんせん難産タイプなので悩ましいところではあります。追い詰められてからやっといい感じに思いついたりするタイプなので、アルバムのリリース予定を先に立てちゃった方が曲は出来ていく気はするんですけど笑

バチバチのアルバム超楽しみにしてます。最後に、Gale boetticherは橋本くん自身の生活やマインドにどんな影響を与えていると思いますか?

橋本:そうですね、生活自体は変化はそこまでなくて、またレコードを結構買うようになったくらいなんですけど、気持ちの面ではバンドをやっていることで自尊心を保てている部分はあります。
まだまだ性格は陰湿で嫌な感じなので、明るい中年おじさんになれるまではバンド続けようと思います!
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GOMES THE HITMAN山田稔明インタビュー

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2019年12月25日、実に14年ぶりとなるニューアルバム「memori」をリリースしたGOMES THE HITMAN
今回はバンドのソングライターである山田稔明のインタビューを公開します。
Anorak citylightsでは、開設当初からGOMES THE HITMAN及び山田氏へのラブレターを送り続けていました。
一方通行進入不可な愛情と親以上の感謝、勝手極まりない自己解釈と少しの自意識、僕はゴメスの歌の主人公になりたい‥。思い入れを吸いタプタプに太ったそれを朝方のポストに放り込み、彼方からの返事を待ち続ける日々。真夜中のテンションで書かれたそれは最早誰の目につくことなく、インターネットの大海で沈殿しておけば良かったのかもしれません。
ところがある日、遂に記事が山田氏本人の目にとまり、直接お返事をいただく事態に。すっかり''ゴメス過激派''と化していた私の心臓は止まり、そのまま帰らぬ人となりました。今は空の上からこの記事を書いています。
冗談はさておき、今回は「memori」をリリースして1か月後の山田氏にお話を伺う事ができました。彼の2016年作ソロアルバム「pale/みずいろの時代」リリース時にも少しですがインタビュー記事を書かせていただいたため、一応今回が2本目の記事となります。
雨の降りしきる吉祥寺に颯爽と現れた山田氏と喫茶店でお話すること2時間、公開できるのはほんの一部になってしまいますが、音楽家としての矜持や政治の話等、他では読む事のできない内容になっています。ご期待ください。
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山田:「memori」、どうだった?

まず何より、現行感が非常に強いアルバムだと感じました。復活バンドの復活作って過去の自分たちを水で薄めたようなアルバムを作ってしまうパターンがあるんですけど「memori」はそれが全くない。欧米の若いインディーバンドと同等、それ以上のフレッシュさがあります。やはり山田さん自身が現行のヘビーリスナーである事が大きいのかなと。

山田:それはあると思う。昔はね、自分の聴いてる音楽とプレイする音楽に解離があったの。ゴメスでやるべき音楽を自ら線引きしていた節があって。イメージとしてのポスト渋谷系を意識してたんだよね。そこから脱却できたのが「mono」で、最終地点が「ripple」だった。

そもそも山田さんにとって渋谷系の当時はどれほど強烈だったのでしょうか。

山田:渋谷系以前はね、自分の好きな音楽と売れる音楽は全然一致しなかったんだよね。でも渋谷系がリアルタイムでチャートインする時代がきて、僕と同じようにマニアックな音楽を好きな人が数字的にもきちんと結果を出すようになった。カジヒデキさんとか、ピチカートファイブとか。やっぱり僕も音楽でちゃんと結果を出したいと思っていたし、そういう意味でも自分は渋谷系の系譜でありたいなと。当時はそんな感じだったね。

広く大衆に受け入れられたい気持ちは山田さんにもあった?
山田:あったし、どこかの人気あるシーンにも入れて欲しかった気持ちはあったかもしれない。でも、どこにも入れずここまで来てしまった。ゴメスみたいなバンドは他にいないって自信はあったんだけどね。下北系とか喫茶ロック界隈を見ていて、羨ましい気持ちになった事もあったし。

特定のシーンにカテゴライズされなかったからこそ、ゴメスは無闇に消費されずこれた側面もあると思うんです。

山田:売上枚数もそんなに多くなかったし、ブックオフでもあまり見かけないし。当時は不遇な気持ちでいたけど、間違ってなかったなって思う。

話が脱線してしまいましたが、山田さんが現行のリスナーであることがまずポイントだなと。

山田:やめられないんだよね。 10枚レコード買っても良いやつなんて2枚くらいしかないんだけど。 ご飯食べに行ったら帰りにレコード屋さんに行っちゃうし、最早ライフワーク。今は音楽を仕事だと思ってないし、僕が詞を書いて歌えばゴメスの根幹は出来上がるから、サウンドは自由に制約なく作れてるのね。意識的にも無意識的にも自分が普段聴いてる音楽の影響は入ってきちゃうし、新しいアイディアのソースはやっぱり新しい音楽がもたらしてくれる事が多いな。
例えば「memori」はネオアコギターポップというテーマがあったけど、それは必ずしも80年代90年代のものだけではなくて。Jay somやReal estateやNo vacationはそういう過去のギターポップを新鮮な解釈で今鳴らしてるわけだから、「memori」を作る上で意識するところはありました。

「memori」の楽曲はspotify等のサブスクでもフレッシュなプレイリストに加わる事が多くて、それが本作の放つ現行感を証明しています。

山田:そう言っていただける事は本当に嬉しいです。

バンドの活動停止中もソロで活動を続けた事、つまりソングライティングの新陳代謝が活発だった事が、この現行感の裏付けだと思うんです。

山田:そうだね、ソロは続けてきて本当に良かったと思う。バンドが止まって、リリースも無くなって収入も減ってしまって。そうするとライブをやるしかないわけだけど、ライブやるなら新曲があった方がいいと思って。ソロとしての新曲とバンドの曲で良い感じのコントラストも描けるし、自分もワクワクできるしね。
それでソロを7年やってみて手応えを感じつつ、頭の片隅ではやっぱりゴメスの事はずっとあった。
ようやく動かせるタイミングになれたのが2014年。僕がソロで全国を廻っていた影響が良い感じに作用して、ゴメスも以前より色々な場所でライブできるようになった。新陳代謝という意味では、活動休止前より全然良いね。

ソロ時代にリスナーの入れ替わりも多少ありつつ。

山田:その辺りはどうなんだろうね。熱心に聴いてくれる人の分母はあまり変わってなくて、入れ替わっているのかも。でも「memori」を今回リリースするに当たり、90年代~00年代にゴメスを聴いてくれてた人達からのリアクションは結構あって。なんだろう、やっぱりバンドって特別なんだよ。ソロにはどうしても越えられない、バンドにしか無い魔法みたいなものがあって。

リアムやノエルのソロがどんなに良くてもオアシスを越えられない、みたいな。
山田:そうそう。ソロでどんなに良い音楽を作ってても‥バンドには敵わない面がある。
僕は「新しい青の時代」というアルバムを作れて、ソロとしてやれるとこまでやれた感じがあったの。だから未練なくバンドを再開できた。「ripple」よりも良いアルバムをバンドで作りたいとも思っていたしね。

「新しい青の時代」と「memori」、比べてみていかがですか。
山田:難しいな。「新しい青の時代」は凄く孤独なアルバムという感じがしていて。ソロのバンドで作ったから勿論色々な方の力を借りたんだけど、何だか独りで作った感じが強い。そういう意味でも究極のソロアルバムなんだよね。
「memori」はバンドでワイワイ作って、それこそアレンジもセッションで練り上げたし、「新しい青の時代」とはベクトルが全く違うのよ。

「memori」を作るに辺り、メンバーとの具体的なサウンドイメージの共有はありましたか?
山田:ないかも。僕らって普段音楽の話をしないし、メンバーも僕が今どんな音楽を好きかってことも知らないんじゃないかな。4人全員が好きなバンドとかもたぶんないし、共通言語がないの。だからゴメスはバンドでカバー曲をやらないんだよね。

確かに。凄く面白いバランスです。「memori」はストリングスやホーンも入っておらず、4人バンドのアルバムという感じが強いです。
山田:プロデューサーやアレンジャーを入れるという事は考えなかったな。「ripple」では意図的にバンド感を排した面もあったし、今回は徹底的にバンドを突き詰めたかった。予算もそんなにとれないし、でも中途半端な作品は絶対に作れない。自ずと4人が向き合わざるを得なくなる。バンドが本当に4人だけで動いていた頃に原点回帰したい気持ちもあったし。

「weekend」は4人だけで作った作品では無かったし、本当に原点回帰ですよね。学生時代の貸しスタジオの匂いがする。

山田:キャリアを重ねた今の状態で再デビューするなら、みたいなね。

その瑞々しさも、「memori」の現行感を後押ししています。今回は最初からメジャーレビューでのリリースを想定しているんですか?

山田:僕がソロで10年やってきたやり方で、自主レーベルからインディーで出す予定だったんだよね。なにせ慣れてるし。でも、そうすると全てが想像の範囲内で収まってしまう懸念があった。ゴメスを好きでいてくれる方々には届くだろうけど、そこから先に届けられるだろうかと。そこで、メジャーの力を借りようと思った。
音源の制作は先行して進めていて、以前から配信でお世話になっているUNIVERSALに声をかけたらGOが出た。

僕は最初メジャーから出すことに懐疑的だったんですよ。ゴメスは広告や資本の力で広がったわけではなくて、あくまでクチコミ的な広がり方をしたわけですよね。今は時代的にも、良いものをつくればインディーもメジャーも関係なくお客さんがついてくる。ましてや山田さんはインディーで結果を出しているし、インディーで出した方が取り分も大きくなる。
山田:メジャーにしかないパワーも間違いなくあるんだよね。例えばUNIVERSALには配信専門のチームがいて凄く優秀だし、「memori」がフレッシュなプレイリストに多数加われているのも、間違いなく彼らのパワーがあったからだと思うし。
イメージとしてのメジャーレーベルに対しては確かに色々思うことはある。でもメジャーで働いてる人ひとりひとりと話をして、役割や人柄が見えてくると、こちらの意識も変わってくる。
ましてや今回のリリースに当たってレーベルからのサジェストも無いし、バンドがやりたいようにやらせてくれてる。凄く良い経験ができてる。インディーでやってたような煩わしい事務作業もレーベルがやってくれたし。次のリリースがどこから出るとかは白紙だけど、良い花火が打てたなーと思います。

UNIVERSALからのリリースということもありサブスクでの配信もスムーズでしたが、サブスクについて思うことはありますか?

山田:サブスクってタワレコの試聴機が手元にあるようなものじゃない?僕らは昔から試聴機で聴いてさえくれれば絶対に心を持っていく自信があったから。サブスクはプラスでしかないよ。Twitterを見てても、みんなサブスクで気軽に聴いてくれてる感じがあるし、サブスクでゴメスを初めて聴いてくれた人もいる。先ほど話した僕自身新しい音楽をサブスクから知ることも多いしね。サブスクは間口を無限に広げてくれるというか。

確かに、「memori」は過去最高の間口の広さになりましたね。

山田:なったね。色々な音楽を取捨選択してるようなリスナーにも聴いて欲しいし、ライブに来て欲しい。「memori」はそういうアルバムになったと思う。

「memori」の話からは少し外れますが、山田さんはソングライティングにおいてリスナーをどこまで意識してるんですか?

山田:あまりしてないかも。歌が個人的であればあるほど、多くの人に響くんじゃないかと思ってる。多数の共感を狙うような歌よりも、個人の独白を一定の余白と共に歌う方が、結果的に心を打つと思う。

歌う言葉も、特定の時代に頼らない普遍的なものばかりですよね。
山田:それは意識してる。でも、この間KIRINJIの新譜を聴いたら、今の時代を切り取るような言葉ばかりを歌っていて面白いなと思った。僕は普遍的でもありたいし、かといって手垢のついたものにもなりたくない。最先端の音楽を聴いてる人にもちゃんとアプローチできるようなものを作りたいとも思うし。聴き手を制限せず、誰にでも聴いてもらえるような詞や歌はどうあるべきかってことを最近は凄く意識するようになった。
でも「memori」の歌詞は15年かけて書いてるからね。そうなるとインスタとかTwitterってワードはどうしても出てこないよね。 もちろん僕個人としてはインスタもTwitterも楽しんで使ってはいるんだけど。

山田さんってSNSを凄くドライに使っている印象があって。日々のニュースや時事ネタや政治に対する意見表示もほぼ行わない。山田さん自身は政治や社会に対しての意見は必ず持っていると思うんです。でも、それをあえて発信しない。
山田:うん、政治や社会に対して思うことは勿論大いにある。僕の立場は昔からキープレフトで、少数派の立場にいると思ってる。僕が投票した人が選挙で勝ったこともあまりない。
でも、自分の政治イデオロギーを文字にした時に、自分の意図とは違う解釈や広がり方をする懸念が常にあって、それが嫌なのね。だからライブのMCとか、ちゃんと生で伝えられる場面では結構政治に対することも言ってるよ。

日本は出口のないデフレの迷路の渦中にいて、どんどん生活水準が落ちてきて未来への希望も見えずらくなってきています。そんな時代において、山田さんの歌う「半径5メートルの幸せを慈しむこと」ってある意味凄く政治的だと思うんです。高いクルマを買ったり世界中をクルーズするような事を幸福とするのではなく、あくまで市井の毎日の中でささやかな幸福を見つけていく事の意味というか。

山田:こんなクソみたいな時代で音楽をやっていると、どうしても伏し目がちになる。能天気にはなれないよね。僕が歌う事が結果的に聴いてくれてる方々の生活や心を少しでも豊かなものにできたらいいなとは常に思ってる。
政治のイデオロギーが近い人とだけ仲良くできればいいかと言われたらそうじゃないし、例えば僕の音楽が好きだけど選挙では自民党に投票してるファンを無下にするのは絶対に違うし。人の考えは流動的で、何かある度にアップデートされていくから、僕の歌を聴いて、なにか少しでも考えを共有することができたらいいとはいつも思ってる。
そのためには大きな表題ではなくて、極めて個人的な気持ちや出来事を歌った方が効果的だと思っています。

なるほど。先ほどからお話してる通り、今世界的にロックやバンドは下火であると言われています。山田さんは音楽家としてどう感じますか?

山田:僕はそもそもリスナーとして凄く沢山レコードを買うし、現行の音楽も相当チェックしてる自覚があるんだけど、それでも、フジロックサマーソニックに来るバンドのことを全然知らなかったりする。もう世界中にはどれだけ沢山の音楽があるんだろうかって思うよ。僕が聴いてるインディーミュージックは本当に僅かな部分でしかない。だからこそ、ある意味世界的なトレンドのことは他人事みたいに見ているのかも。僕は僕の好きなインディーを追いかけているだけで凄く楽しいし、ゴメスを聴いてくださる方もそうであったらいいなあと思う。自分の好きなものをとことん楽しんでほしい。

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THE FULL TEENZ伊藤くんインタビュー

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2016年の初夏にリリースされたファーストアルバム「ハローとグッバイのマーチ」より4年、遂にTHE FULL TEENZが待望のセカンドアルバム「タイムマシンダイアリー」をリリースする。
モラトリアムの先に広がる深い森に出口を見付けた彼らが鳴らす至極のメロディー、特定のシーンにもたれる事なく展開されたライブで強力にビルドアップしたバンドのフィジカル、渡り廊下で先輩を殴れなかった僕の詞は夢の轍、世界中でたった独りだけの君に届く。
Anorak citylightsではなんと4回目のインタビューを敢行。彼らと実際に話した事こそ殆ど無いに等しいが、私は彼らの動向を注視し続けてきた。だからこそ本作のリリースは感慨深いし、またこうして対話を記事にする事ができて嬉しい。THE FULL TEENZ、凄く好きなロックバンドなんだ。
彼らの歩む道が光溢れるものでありますように。

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まずは前作にあたる2016年作の「ハローとグッバイのマーチ」の総括からお話を伺えればと。あれから4年近くが経ち、リリース時とは違った見え方ができているのではないでしょうか。

伊藤:前作は僕らにとって初めてのアルバムだったので、高校生の頃に作った曲から今のスタイルに繋がる2015年頃までに作った曲がまとめて収録されていました。いわば初期ベスト的な感じだと捉えています。
僕の生活的にも、学生から社会人になるタイミングがレコーディング〜リリースの時期と重なっていたんです。
たまに聴いて当時の気持ちを思い返したりしますが、やっぱりあのタイミングでしか作れなかったアルバムだなと思います。今作ろうと思っても絶対に出来ない。
あとはKiliKiliVillaの安孫子さんと、あーでもないこーでもないって夜な夜な連絡を交わしながらmixした日々は単純にプライスレスだったなと。

パンク外のリスナーにも幅広くリーチできた作品だと感じています。あのアルバムがあったから、シーン関係なく多岐にわたる活動を行う足掛かりになったというか。名刺がわりとして最良だったと思います。
伊藤:僕もそう思います。あとはファーストアルバムの制作が、僕自身が本当にやりたい音楽を見つけるきっかけにもなりました。
そもそも僕が音楽に夢中になったきっかけはBEAT CRUSADERSなので、ポップで明快なものが好きという気持ちが根底にあります。メロコアを青春時代に聴いていた期間が1番長いってことも事実です。でも、大学に入ってからしばらくはメロコアとかを好きだった自分を黒歴史のように感じてしまっていました。

なぜそのように感じてしまっていたのでしょう?

伊藤:I hate smoke recordsのバンドに出会えた事や、感染ライブ等アンダーグラウンドなパンクのカルチャーに出会ったからだと思います。
THE FULL TEENZの曲も短く展開が激しいものに変わっていきました。それと同時に、JET SET等で海外のレコードを買うようになったり、同じ大学だったSeussのメンバーたちと遊ぶうちにアメリカやイギリスの現行インディーロックを聴くようになりました。
その結果できた雑多な曲が、ファーストepの「魔法はとけた」に入ってますし、「ハローとグッバイのマーチ」にも入ってますね。

当時の伊藤くんが1番カッコいいと思えるような曲を作れていた。

伊藤:I hate smoke recordsや京都のインディーバンドたちと出会い始めたころは、自分の好きなバンドの人達に好かれるようなバンドになりたいとか色々下心みたいなものもあったと思います。

ファースト以前のTHE FULL TEENZは雑多な音楽をやや強引かつカラフルにまとめあげていましたが、「PERFECT BLUE」や「ビートハプニング」等の新曲群は焦点が定まっている印象を受けていました。

伊藤:そうですね。「PERFECT BLUE」によって、メロコアをルーツにしてた自分、「ビートハプニング」によって、ポップなものを好きな自分に正直になれた気がしますね。余計な縛りとかを考えずに曲を作ったら、自分の本当に好きだった3分くらいのポップソングができるようになってきたんです。それがセカンドアルバムに入っている新曲にも直結していきます。

僕がセカンドの曲群を聴いて最初に想起したワードは「パワーポップ」でした。でもメロディやアレンジのあちらこちらにライトメロウや現行インディー等の要素が染み込んでいて、それがまさにTHE FULL TEENZのサウンドとして確立しています。

伊藤:ファーストでそれこそ今までの持ち曲を全部出してしまったので、セカンドは完全な更地からの曲作りでした。先ほどお話した通り余計な縛りを自分の中で取っ払ったとは言え、クオリティとしては全曲ファーストを超えていないとアルバムにする意味がないと思っていたので、そういう面では曲作りにすごく時間がかかりました。
THE FULL TEENZで一番大事な要素は何かを考えた時に、とにかくメロディーが良い曲を沢山作りたいと思ったんです。
なので、アレンジについては相変わらずバリエーションがありますが、音作りはファーストに比べるとだいぶシンプルになっていると思います。全てはメロディーのためです。

ギターのコード等も基本的にはメロディに忠実かつ引き立てるようになっていると感じました。また、以前から伊藤くんのメロディは自身のルーツであるパンクやメロコアのそれとは全く異なるセンスを持っていると感じていたのですが、本作でそれは確信に変わりました。このメロディはどこからくるのかなと。
伊藤:どこからなんですかね?笑
やっぱり根本にJ-POPがあるんだと思います。物心がつき始めた頃の90年代〜00年代初頭までのポップスは根底にあります。今でもカラオケでその辺の年代別メドレー全部歌えるかも知れません 笑
あと、レコードで言うと和モノの70〜80年代のライトメロウやシティポップみたいなやつを1番買います。これを思春期に聴いてたメロコアのスタイルに無意識で落とし込んでるのかもしれません。

ここからはアルバムの曲を順番に見ていきましょうか。まずは1曲目、「i cherish i」。弾き語りで始まりバンドサウンドに入っていくアレンジは意外と無かったんですよね。

伊藤:そうですね、アルバムの冒頭は1番生っぽく始めたかったんです。ありのままの自分と、メロディーと、アコギだけで。この曲の歌詞がセカンドアルバム全体を通して、さらには今の自分たちのバンドをやる理由を明示してる内容になってます。だから1曲目にしました。

君と僕にはなれない僕らは、と歌いだしからいきなり強烈ですよね。 バンドをやる理由を1番明示してる という部分について、もう少し具体的にお聞かせいただきたいです。

伊藤:この曲ができた背景を話します。ちょうど1年前の今頃(2019年の1月)に、自分が大好きで昔から憧れていた方とガッツリ話す機会があったんです。彼との会話の中で、自分の小ささに気付いたというか。それまでの僕は、どうしても彼を憧れの対象として見てしまっていたんです。
でも、彼は知名度も活動規模もまるで違う僕らのことを対等なバンドマンとして接してくれていることに気づいて。だからこそめちゃくちゃ現実的かつ厳しい言葉もいただいたんです。それが悔しいのと同時に嬉しくて、その場でボロ泣きしてしまって。
もう誰かに憧れたり、誰かになろうとすることはやめて、本当にありのままの自分たちをいかにバンドで表現できるかという事だけを考えようと、その日自分の中で誓いを立てました。それが、「i cherish i」です。自分たちに対しての宣誓の歌。

そのお話、セカンドアルバムのサウンドが大幅にビルドアップされ、かつ確実に「THE FULL TEENZのフォーマット」で一貫しているといる事実に大きな説得力を与えていますね。

伊藤:ありがとうございます。季節感なく普遍的に聴けるアルバムになっているとも思います。

確かに夏っぽいキラキラした感じよりも、生々しさが増したと思いました。特に歌詞ですが、どの歌詞の主人公もひとりぼっちなんですよ。他者を思ったり慈しんだりしているのに、みんなひとりぼっち。
2曲目の「コンティニュー」もそうですよね。

伊藤:そうですね、歌詞の根本的なところに関してはずっと変わっていなくて、ひとりぼっちなことをずっと歌ってます。こういうと凄く暗い奴みたいですけど笑
「君」と「僕」が出てくる詞になるべくしたくないという気持ちがありました。
これまでも「君」と「僕」が両方出てくる歌詞はありましたが、あくまでも個人の視点であって、ましてや恋愛の曲は1曲もないんです。「i cherish i」の歌い出しも、そう言った歌詞へのアンチテーゼです。
「コンティニュー」も歌詞だけ読むと失恋の歌という感じですが、あくまで「失敗」するということと「それでももう一回やり直してみる」ということがテーマであって、これもまたひとりぼっちの歌ですね。昔からよく「THE FULL TEENZは夏っぽくて爽やかだね」と言っていただけるのですが、実際歌詞は全然爽やかじゃなくて、あんまりうだつの上がらない個人の一人称視点でしかないんですよ。

歌詞の一人称は伊藤くん自身なのでしょうか?それとも曲毎に主人公が別にいる?

伊藤:曲によって様々ですね。主人公やシュチュエーションはフィクションであったりしますが、描いてる気持ちは実際に僕が感じたことなので、そういう意味でいうと僕が色々なパラレルワールドにいるイメージですね笑

サッドな歌詞が多いですよね。

伊藤:多いですね。でも、「ひとりぼっちで寂しい」という事を共感して欲しいわけではなく、「僕はこういうシチュエーションではこんな気持ちになるんですけど、そういう時ないですか?」みたいなラフな感じです。
稀に共感してくれる人が居てくれたらそれはそれで嬉しいですが、僕にとって歌詞は本当に日記や手帳のようなものです。「タイムマシンダイアリー」の「ダイアリー」はそういうニュアンスなんですよ。

なるほど。歌詞を書くタイミングで聴き手の事はある意味全く意識していないというか。

伊藤:歌詞において、聴いてくださる方のことは本当に全く意識してないです!マジで僕の日記を公衆の面前に公開してる感覚です笑

ちなみに、「コンティニュー」のシングル盤はまさかの台風クラブとの実質スプリットで驚きました。アルバムに先行してリリースされたシングル3部作はカップリングも凝っていましたね。

伊藤:シングル3部作のカップリングは、今までCDに収録したことのない曲を収録しようと決めていました。
「You」にはBEAT CRUSADERSの「FIRESTARTER」のカバーを入れました。日高さんにも許可をいただいてます。
「Slumber Party」にはNOT WONKとのスプリット7インチにしか入ってなかったNOT WONK「Give Me Blow」カバーと、KONCOSやimaiさん、aapsたちと一緒に作ったコンピにしか入ってなかったKONCOS「Baby」カバーを、どちらも初めてCDに収録しました。
で、「コンティニュー」を出すと決めた時にカップリングを悩んでいたんです。
ひと昔前のロックバンドの7インチって、他のミュージシャンによる表題曲のリミックスがB面に入ってたり、むしろリミックスだけで両面のやつとかもあったじゃないですか。
それを考えた時に、僕らのシングルなんだけどカップリングを僕らがやってないのも面白いんじゃないかと思って。人力リミックスというか、誰かに僕らの曲をカバーしてもらったものをカップリングにすると。
そのタイミングで「コンティニュー」のMVを台風クラブのベースの山さんに撮ってもらうことになって。これはもう台風クラブに僕らのカバーをしてもらおうと笑

カバー曲はすんなり決まったんですか?

伊藤:台風クラブ側に何曲か候補曲を送ったところ、初めて台風クラブとTHE FULL TEENZが対バンした時に僕らが演奏した「魔法はとけた」が一番印象深いって石塚さんが言ってくれて、この曲をカバーしてくれることになりました。

なるほどです。まさかのリミックスの発想からカバーに至るとは、おもしろい流れです。 THE FULL TEENZ「魔法はとけた(台風クラブ REMIX)」ってことですよね。台風クラブも大好きなので1粒で2度美味しい感ありました。
3曲目「トープのボストン」はイントロからTHE FULL TEENZ史上最もヘビーなリフが入るので驚きました。

伊藤:「トープのボストン」のイントロは本当に気に入っています。
ああいうヘビーで暗いイントロから始まって、その後展開が開けていくような曲をずっとやってみたかったんです。これも色んな思い込みを脱ぎ捨てた今だからこそようやく胸を張ってできた曲です。
高校生の頃、メロコアだけじゃなくスラッシュメタルもめちゃくちゃ聴いてたので、リフ至上主義なところが僕の中にありまして。この曲はその僕が顕著に出ました笑

そうそう、イントロをヘビーに決めて、その後軽やかに疾走する感じがめちゃ気持ちいいです。どんなにヘビーなリフを挟んでも、伊藤くんの歌とメロディーで清涼感は担保されますしね。
この歌の詞も、THE FULL TEENZのスタンスを暗示してますよね。誰よりも僕は僕でいつまでもつまずいていたい。

伊藤:そうですね、「i cherish i」と「トープのボストン」は、以前だったら恥ずかしくてこんなに赤裸々な歌詞書けなかっただろうなと思います。

「ハローとグッバイのマーチ」というモラトリアムの終わりを告げるアルバムを作り、次作では先人への憧れから脱却、自分たちの衝動に素直かつオリジナルな音楽を追求するという流れは非常に筋が通っています。伊藤くんのビジョンは菅沼くんやチカさんとも共有できているのでしょうか?

伊藤:曲を作る工程においてメンバーに意図を伝えたりすることはあんまりないです。最初から最後まで展開とコード進行を僕が作って、メンバーにそれを伝えて、ベースラインであったり、ドラムのフレーズとかを調整していくという流れです。オケがほぼ定まったところでメロディーを一番最後に作ります。これは結構意外と言われます。

メロディーありきで作曲しているのかと思っていました。

伊藤:メロディーが1番大切だからこそ、メロディーを深く練りたいので1番最後にしています。

4曲目「雲ひとつない」はBPMを落としたミディアムテンポのメロウチューンで。「安定な不安定」というキラーフレーズもありつつ、やはりメロディが光りまくってる曲ですね。

伊藤:「雲ひとつない」はアルバムの中でも特に気に入っている曲です。
アコースティックギターをメインで弾いていて、ラストのサビでエレキに持ち替えるというスタイルはASPARAGUSの忍さんイズムを自分なりに踏襲したつもりです。

歌詞についてはいかがですか。

伊藤:「雲ひとつない」というタイトルを見ると、普通は爽やかな青空を想像すると思うんです。でも、この曲で歌っているのは、「雲ひとつない青空の下なのに、僕はなんてパッとしないんだろう、なんでこんなに心許ないんだろう、むしろこの青空が辛い」というこれまた暗い気持ちを歌っています笑

そうそう、「雲ひとつない」はタイトルのイメージと歌詞の世界観が真逆なんですよね笑

伊藤:CLOUDがNOTHINGということで笑

ああ、そういうことか!笑
THE FULL TEENZってエモーショナルなんですけど「エモ」には寄らないんですよね。湿っぽさみたいなものがなくて、どの曲も清涼感と喉越しの良さがある。聴いた後に残る感情がネガティブなものじゃないんです。

伊藤:ありがとうございます。
僕自身、陰鬱な音楽があんまり好きじゃなくて。自分の歌詞はちょっと暗いかもしれないけど、僕自身が暗いわけではないというか笑
例えばどんなに明るい人だって孤独を感じることはあるだろうし、逆に暗い人が希望に満ち溢れた曲を作ることだってあるだろうし。僕の歌詞はちょっと寂しいかも知れないけど、別に寂しい生活を四六時中過ごしてるわけではないというか 笑

むしろかなり充実した学生時代を送っていたり、他者とのコミュニケーションも円滑ですよね。

伊藤:たしかになんでこんな寂しい歌詞ばっかなんだろうって自分でも思います笑
たぶんどこかで満足してないというか、自分にない物を持ってる人のことを羨ましく思ったりする気持ちは常にあるんだと思います。

5曲目は「Slumber Party」。シングル3部作の2番目ですね。

伊藤:「Slumber Party」は、ファーストをリリースした直後にできた曲です。
今までも2ビートの曲はあったのですが、疾走感一辺倒になるのではなく、展開を持たせることを意識して作りました。セカンドの中で一番最初に出来た曲なので、ファースト以降のTHE FULL TEENZのモードを示すことができた曲だと思います。
イントロはキラキラしたシマーリバーブのフレーズを両サイドからアコギだけで挟み込んでいて、その後2ビートになるところでエレキギターに切り替わるんです。ちょびっとLiteratureを意識しました。所謂USインディー的なイントロの後にメロコアっぽいビートになるという、頭が牛で身体が人のミノタウロスみたいな曲ですね。僕ららしい曲が書けました。

こういうがっつりしたメロディックパンクにシマーリバーブを挟むのってあんまり聞かないですよね。「Slumber Party」というタイトルと歌詞の世界が繋がらない気がするのですが、どんな意味が込められてるんですか?

伊藤:「Slumber Party」っていう言葉は、日本でいうパジャマパーティーみたいな意味らしくて。アメリカの女の子たちがパジャマで集って夜更かししたり普段できないような話をするっていうイベントなんです。
この曲の歌詞も、夜にしか会えない(見えない)誰かと夜通し会話をしていて、朝が来たら消えてしまうという内容になってます。あんまり詳細に解説するのは野暮ですが、ジャケットがキーになっているんですよ。

言われてみれば顔の見えない友達と秘密の話をしているように見えるイラストですね。ジャケットにもきちんと楽曲を補完する意味付けをしているのですね。

伊藤:日向山葵さんに描いてもらったシングル3部作のジャケットは、全てそれぞれの歌詞の内容に沿っています。詳しくは説明しませんが、色々想像していただければなと。

6曲目は「Puppy Love」。まさかの 「魔法はとけた」収録曲、「Yellow Knife」のリメイクですよね。アレンジを大幅に変え、サイダーもシャンパンに変わるなど詞の主人公も確実に大人になってるなと笑 こちらを収録するに至った経緯を教えてください。

伊藤:サイダーがシャンパンになっているところ、気付いていただけて嬉しいです笑
「Yellow Knife」をレコーディングした頃はまだベースが菅沼じゃなくて。菅沼が入ってからは1度もやった事が無かった曲だったんですけど、僕もチカも好きな曲だったので、もう1度きちんとアレンジし直してレコーディングしようと思ったんです。
展開も減らすところを減らしつつ増やすところは増やしてメリハリをつけました。ベースラインも今の気分にガンガン変えて、納得いく形に仕上げました。我ながら気に入っています。

アルバムの流れにもしっかりはまって、凄く良いアクセントになってると思いました。タイトルも初恋という意味に変わっていて、解釈の幅が広がったなーと。
7曲目「きっといつまでも」は本作の中でもライトメロウ感が強めです。詞の世界観もアルバム中最も純朴なんですよね。珍しく幸せな時間や感情を歌っている。伊藤くんらしくないといえばらしくない笑

伊藤:「きっといつまでも」は、バレーボウイズのボーカルであるネギくんがソロでやっていた曲をカバーさせてもらいました。といってもかなりアレンジしてあんまり原型ないかも知れないです笑

それで歌詞の世界観も異なるわけですね。なぜカバーしようと?
伊藤:ネギくんの弾き語りライブを見に行った時にこの曲をやっていて、歌詞が本当にいいなと思いまして笑 その場で「THE FULL TEENZでやらせて下さい!」と直談判しました 笑
普段の僕の歌詞と違って、本当にピュアで純朴な歌詞だなと思います 笑 原曲がロマンティックな雰囲気だったので、よりロマンティックになるようバンドアレンジしました。

その場でカバーを直談判って相当な事ですよね笑 カバーだと気付かないくらいマジで凄くTHE FULL TEENZにハマってると思います。

伊藤:NOT WONK、KONCOS、BEAT CRUSADERSの時もそうですが、僕らがカバーする際は絶対に原曲から大胆なアレンジをして僕らのものにしてしまいたいと思ってやらせてもらってます。
なので、カバーだと気付かないと言ってもらえて嬉しいです。

「きっといつまでも」を聴いて感じたんですけど、伊藤くんってシンプルに歌の地力がありますよね。ファーストから大きく成長した点だと思います。
歌に対しての気持ちの変化や技術の成長を感じますか?

伊藤:歌はファーストからセカンドにかけてかなり変わったと思います。
そもそも僕はボーカルをやりたくてバンドを組んだわけじゃないんです。THE FULL TEENZを組んだ15歳の頃、たまたまメンバーの中で楽器を弾きながら歌えるのが僕しかいなかったので、僕が暫定的にボーカルになっただけで笑 気付いたら12年経ってしまいました笑
なので、最初の頃は歌に向き合ったことがほとんどなかったんですけど、ファーストを出した辺りからこのままじゃダメだと思って色々考えたり、知り合いのバンドの人にトレーニングしてもらったり、ようやく歌うことに対しての意識が芽生えてきたんです。歌は本当にずっと上手くなりたいと思ってます。他のバンドのライブとか観ててよくヘコみます笑

その流れでいうと、8曲目「まばたき」はドラムのチカさんの歌唱曲です。

伊藤:「まばたき」は、作ってる段階からチカに歌ってもらおうと思っていました。同じバンド内なんですけど、楽曲提供してる感覚なんです。ASPARAGUSの忍さんが木村カエラさんに楽曲提供しているのが本当にカッコいいなと思っていて。
本当はもっとチカに歌って欲しいんですけど、やっぱりペース的にはアルバムに1曲くらいの割合になっちゃいますね。
チカは元々MOTELというガレージロックバンドのボーカルをしていて、ミッシェルガンエレファントのチバさんみたいなしゃがれた感じで歌ってたんです。
で、THE FULL TEENZではドラムをやってもらうことになったんですけど、歌に関してはどういう風にフィットさせればいいかとても悩んでいたみたいで。あーでもないこーでもないと歌い方を模索してて、今でもチカの歌は変わり続けてます。でも、単純にドラムを叩きながらあれだけ歌えるのはめちゃくちゃ凄いと思います。

次は、久しぶりの音源としてシングルリリースもされた「You」について。
ファーストが夏なら秋になったような、半袖だった青年の髪が伸びて服も上着を着込んでいるようなイメージで。
ハローとグッバイの先でも青年はまだ悩んでるし、なんならそれが加速してるなと。未来へのまばゆい希望を感じさせた「ビートハプニング」の次が「You」だったからビックリしましたよ。サウンドNAVELを想起させるようなサッドメロディック、ボトムはグッと太くなっています。「You」を最初のリードシングルに選んだ理由等も知りたいです。

伊藤:「You」はTHE FULL TEENZ歴代の曲のなかでも作曲に1番時間を要した曲です。
仰るとおり、「ビートハプニング」でもうモラトリアム的なことは卒業したと思っていたんですけど、その後はその後でまだまだ悩みが生活の中にはたくさんあって、なにを歌えばいいのか凄く考えた時期があったんです。
1度立ち返ろうと思って、自分を見つめ直した歌詞を書いたんです。その歌詞に、あえて真逆の「You」という2人称のタイトルを付けました。他者ではなく自分自身に語りかけてるイメージですね。
すると、自ずと作曲やアレンジへのハードルが上がってしまって、曲の展開やメロディーを何度も何度も練り直すことになりました。結果的に構想から完成までかなり時間がかかってしまったんです。
それだけ難産だったからこそ、納得のいく曲になったし、これを1枚目のシングルにしようと思って選びました。

なるほど、「You」は「誰か」じゃなく「自分自身」なんですね。確かに歌詞の世界観には深い内省の跡がみれる。出だしのAメロからメロディも素晴らしいですね。間違いなくTHE FULL TEENZの新たな代表曲だと思います。MVの印象も強いです。
ちなみ三枚連続リリースという発想はどこからきたんですか?

伊藤:そもそも今作は2018年の夏と2019年の夏の2度に分けて録ったんですよ。
当初は2018年夏の分だけでリリースしてしまおうと思っていて、ミニアルバムのサイズになる予定でした。ただ、そうなると次のフルアルバムが出せるまで、何年かかるか分からなかったし、もう少し新曲のストックができてからそれらも録音して、フルアルバムとして出そうと。
ただ、2018年夏に録音した新曲を早く聴いてもらいたかったので、3枚連続でシングルを出してしまおうと。これはHomecomings福富さんのアイディアです。
本作は結果的に1年がかりで製作する形になったので、ファーストアルバムから4年ものブランクを空ける形になったんです。

時期をあけて製作されていますが、アルバムを通した統一感は抜群だと思います。
「Cadeau」はアルバムを締めくくる1曲であり、随一のショートチューンです。この曲をラストにもってきた意図を教えてください。

伊藤:「Cadeau」は下北沢THREEでオールナイトイベントをした後、そのまま江ノ島にほぼ直行した日のことを歌ってます。
真夏の江ノ島のコンクリートから登る陽炎や、海面のキラキラは余りにも儚くて、夢の中に居るような気さえしました。
夏はすぐ駆け抜けて終わっちゃうので、「Cadeau」もこの尺がベストだと思いました。
本当は「You」で終わるのが作品のテーマとしては1番綺麗だったのかも知れませんが、どうしても最後に駆け抜けて終わりたかったというか笑
昔の僕らが作っていたようなショートチューンを今の僕らの感覚で刷新した姿を見せたくて。過去と未来を行き来するようなイメージです。

それは「タイムマシンダイアリー」というアルバムタイトルにもリンクしている?

伊藤:仰る通りです。「タイムマシン」は未来と過去を行き来できますが、「ダイアリー」は日々の積み重ねで、1方向にしか進んで行かないものですよね。矛盾する2つのものを1つに組み合わせてみました。僕らの未来と過去を日常が繋いでいる。そんなイメージです。

「タイムマシン」と「ダイアリー」、それぞれはありきたりの単語かもしれませんが、組み合わせる事で新しい意味合いが生まれてくる。素晴らしいタイトルだと思います。
ちなみに「Cadeau」って何ですか?笑

伊藤:「Cadau(カドー)」は、新代田にあるパン屋さんです。
下北沢THREEでのオールナイトイベントが終わった後、みんなでCadeauでモーニングを食べてから江ノ島に向かったんです。
なので、「目覚めたらCadeauで会いましょう」という歌詞は、「一旦仮眠して数時間後にカドー集合ね」 っていう実際にあった出来事です笑

まさにダイアリーです笑
駆け足でアルバム全曲を振り返りましたが、あらためて「タイムマシンダイアリー」を作ってみて率直にいかがでしたか?
どのような手触りの作品で、THE FULL TEENZ史においてどのような意味合いを持つ作品になりそうですか?

伊藤:「ハローとグッバイのマーチ」から4年という歳月が僕らの視野を広げて、音楽的にも色んなしがらみが取れました。
結果として今までTHE FULL TEENZを聴いたことなかった人にも気にしてもらえるアルバムになったと思います。
個人で言うと、将来僕自身がこのアルバムを聴いた時に、いつでも2020年に戻れるようなツールであったらいいなと思ってます。



(information)THE FULL TEENZ

伊藤祐樹(Vo, Gt)、菅沼祐太(Ba, Vo)、佐生千夏(Dr, Vo)の3人組。

2008年中学生だった伊藤を中心に結成、2014年現在の3人編成に。京都を中心にスタジオライブから「ボロフェスタ」、「FUJI ROCK FESTIVAL」等の大型フェスまで縦横無尽に活動中。メンバーを中心にインディペンデントレーベル"生き埋めレコーズ"も運営。2014年1st ep「魔法はとけた」(CD・生き埋めレコーズ)、2nd ep「swim! swim! ep」(TAPE・I HATE SMOKE TAPES)、2015年NOT WONKとのスプリット(7"・SECOND ROYAL RECORDS)をリリース。2016年5月1stフルアルバム『ハローとグッバイのマーチ』をリリース。ミックスは安孫子真哉(KiliKiliVilla)が手がけた。

2018年末より「You」「Slumber Party」「コンティニュー」の3タイトルのシングルを一部店舗限定で連続CDリリース。
2020年2月、約4年ぶりとなる待望の2ndフルアルバム『タイムマシンダイアリー』をリリースする。

RISE OF GOMES THE HITMAN-ニューアルバム「memori」に寄せて-

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【あの頃ゴメスザヒットマンと】

大人になって随分になる。
いつの間にか34回目の誕生日を迎え、いつの間にか私の隣には妻と3人の子供たちがいる。これは幻やオカルトの類いではなく、朝が来る度に隣から聞こえる小さな寝息が私を大人に変身させるという事実の説明である。なんてことだ。
夢遊病のような姿で歯を磨きスーツに着替え左ポケットに突っ込まれたSUICAを確認する。心の準備はとりあえず後にして、私は満員電車に突入する-
銀杏BOYZの最前列並みの人口密度、かろうじて動く右手の先でイヤホンを探す。雑草の根っ子みたいになったそれを何とか耳に突っ込み、おじさんの背中で操作するi-pod。頭文字Gまであと少し。流れ出したイントロより少し遅れて私は目をつむり、つかの間の時間旅行を敢行する-


遡ること13年前、2006年。青年は20歳。東京での学生生活も板につき、 講義をサボってテレビを見たりレコードを探したり、友達のバイクでラーメンを食べに出かけたり。憧れていた大学生活そのものではないけれど、これはこれで悪くはない。本当はオレンジデイズみたいなやつ、想像してたりして。代わり映えない毎日。
学生生活には膨大な時間と退屈が存在する。とにかく暇だ。極端な話、平日も休日もそんなに変わらない。人生の夏休みと比喩されるだけある。青年はそれらを甘んじて享受していた。足しげく通った高円寺や下北沢のレコード屋で手に入れたハードコアパンクの12インチを眺めては朝方まで聴き込んだり、深夜テレビを横目に好きな子へのメールを返してみたり、なんてことない時間を回転寿司の皿みたいに積み上げる日々。こんなものだろう。
ある夏の日のこと。いつものように深夜テレビを眺めながらポテトチップスを食べている何気ない瞬間、青年は運命の出会いを果たす事になる。ここで本稿の主題であるGOMES THE HITMANの登場らしい。
当時ジャックスカードのCMには彼らの名曲「手と手、影と影」が使用されており、Bメロ~コーラスの1番美味しいパートが約30秒流れていた。映像にはいくつかのパターンがあり、僕が見たものは若者たちが気球に乗り込む映像だったはずだ。他にも、親子が海へ行く(つもりじゃなかった?)バージョンがあった気がする。郷愁を掻き立てる映像世界と、気球が浮かぶ青空の向こう側で美しく飛翔するメロディ。画面の隅で窮屈そうに鎮座する'♪GOMES THE HITMAN'のテロップ。なんて素晴らしい曲だろうか。そして、なんて風変わりなバンド名だろうか。明日、CD屋に行こう。七畳半の部屋に放たれる決意。
「手と手、影と影」は目下の最新作である「Ripple」に収録されているらしい。タワーレコード新宿店で手にしたそれのジャケットには、猫の被り物をした青年が佇んでいる。これが何を意味しているかはわからない。2500円という価格にたじろぎながらも、「手と手、影と影」はここでしか聴けない。ベスト盤の類いもリリースされていない。
少しの葛藤を経て「Ripple」を手に入れた青年は小田急線に乗り、祖師ヶ谷大蔵の自宅アパートを目指す。袋の中でCDがガサガサ動いている気がする。猫の被り物したアイツが今にも袋から飛び出すかもしれない。握る手に汗をかく。新宿から祖師ヶ谷大蔵までは約20分。もう少しで、ジャックスカードのあの歌が私の部屋にくるのだな。あれ以外に8曲入っているが、全然良くなかったらどうしよう。itunesに取り込んですぐに売ってしまおうか。そもそも1曲しか知らないバンドのアルバムに2500円も出すなんてどうかしている。ゲームセンターのアルバイト、辞めなきゃ良かったかもな。頭の中を猫被ったアイツがぐるぐるまわる。気が付くと目の前に見慣れた部屋のドアがあった。
中学生の時から使っているCDコンポ。最近はレコードばかり聴いてるせいでコンポの上に少し埃が被っている。青年は「Ripple」の封を切り、ケースに指紋を付けないよう指の先で蓋を開ける。収められたディスクをやはり指の先でつかみ、冬眠から覚めたばかりのコンポに挿入する。あと数秒で音楽が部屋を支配するはずだ。
1曲目「東京午前3時」の導入は驚くほど穏やかだった。ハードコアパンクばかり愛聴していた青年の耳には少し退屈に聴こえるが、それはそれで問題である。青年は目を瞑る。真夏の夜の世田谷。街頭の灯りに照らされた街には物音ひとつしない。夜の静寂を確かめるようにボーカルが入る、''ほの暗い街の灯よ 言葉が浮かぶのを ここでずっと待っているよ''
歌声は繊細で、少年の話し声のような幼さと、清濁混じった老成と。それらが両立する矛盾さえも受け入れるポップミュージックの深い森。メロディがその入り口に立つ。
青年はスピーカーの前から動けず、食い入るように窓の外を見る。青年の目前に広がる世田谷の夜景と、「東京午前3時」の世界観が張り付き符合する。このアルバムが大切なものになるという確信が部屋をゆっくり満たす。
「ドライブ」「手と手、影と影」「星に輪ゴムを」曲が進む度、青年は打ちひしがれていた。ミニマムなバンドアンサンブル、ふくよかだがどこか歪な録音、日常を美しく描写する詞、全てを引き受ける山田氏の歌声とメロディ。
このアルバムは私のためのアルバムであると。明日から世界の見え方が少し変わるかもしれないと。ポップソングの凄味とはこういうものなのだと。
確信は現実のものになり、イヤホンからは毎日山田氏の歌が漏れ、青年は自分の人生を尊いものかもしれないと思えるようになる。GOMES THE HITMANの音源は全て探し出し、そのどれもが青年の毎日を少しだけ豊かなものにした。時には人生の師のように、時には旧来の親友のように、悲しい時も嬉しい時も彼らの音楽が傍らにあった。5年後も10年後も、ずっと聴き続けていたい。
心残りはひとつだけ、それはバンドが活動を停止していることだけ。詳しい事情は分からない、でもライブを観ることは叶わなかった。いつかニューアルバムも聴けたらいいな-


【ゴメスと俺、その後】

加速する満員電車は労働者たちを都心へと運ぶ。皆が一様に下を向き、周囲に気を張りながら目的地の到来を待つ。私は通勤中か就寝前ぐらいしか音楽を聴く時間がない。親指で操作するiPodは電池残量に不安を残すものの、何とか私のために歌をうたってくれている。彼の液晶には「GOMES THE HITMAN/memori」の文字。総再生回数はまだ1回。
信じられない事に、GOMES THE HITMANはニューアルバムをリリースしたのだ。正確には数年前から山田氏よりニューアルバムへの意欲が口にされていたし、2014年の復活以降におけるバンドの充実具合を考えれば有り得ない話ではなかった。
2018年にはバンドで録音中であることが伝えられ、過去のライブ等で限定数配布・販売されていたレアトラックを再録したアルバム「SONG LIMBO」がリリースされた。
復活したバンドのリハビリ作品と形容するにはあまりに瑞々しく、若りし頃に書かれた楽曲の持つ煌めきが、妙齢を重ねたメンバーの円熟を伴うアンサンブルによって鳴らされるという歪さがある種のマジックを起こしたと言っていいアルバムだと思う。ナンバリングが付かない作品である事を惜しむくらい充実した作品だ。アルバム前半の放つ疾走感および全能感は特に白眉であり、まるで青春映画の導入部が何度も繰り返されるようだ。
平行して展開された「SONG LIMBO REMIX」にも言及しておきたい。バンド初のリミックスアルバムである。しかもそれがアルバムツアーで発売されるというから驚いた。とてつもないスピード感である。サブスク全盛期である昨今、USのヒップホップアクト等でこういった現象は見られるが、まさかそれをゴメスがやるなんて。内容も言わずもがな、ベース須藤氏による洗練と実験をペーストし2018年のスペシャルスパイスをふりかけ遊び心で仕上げた珠玉のアルバムである。堀越氏の歌唱曲を含んだ新曲も2曲入っているし、なんと2003年のボーカルテイクを使ったリミックスも入っている。2018年のゴメスの演奏をバックに2003年の山田氏が歌う。須藤氏なりの未来から過去への手紙、さながら逆タイムカプセルである。
そんな復活作とそのリミックス盤を経て、満を持し登場したGOMES THE HITMAN 6thアルバム「memori」である。レーベルはUNIVERSAL、メジャーからのリリースだ。
本作が彼らの最高傑作となる予感はあった。山田氏のブログやSNSを通して伝えられるレコーディングの好調ぶり、先行シングル「Baby Driver ep」のクオリティ、「新しい青の時代」を経た山田氏が本作に課した高いハードル。
山田氏の口からは本作のコンセプトとして「ネオアコ」「ギターポップ」というワードが飛び出していたが、それぞれの意味はさておき、それは「フレッシュなポップミュージックを作る」という意思表明であったのだろう。そして、それは高い水準でもって見事に達成されている。どうか聴いてみてほしい。映画でも文学でもない、音楽でしかあり得ない最高の感情体験が待っている。
そんなニューアルバム「memori」について私なりに解説していこうと思う。
アルバムの導入部には山下達郎ばりの多重アカペラ「metro vox prelude」が配され、緩やかなスピード感でもってスタートする。
2曲目「Baby Driver」は名曲「雨の夜と月の光」を彷彿とさせる、グルーヴィーなギターのカッティングとスウィングする鍵盤の調べが曲をリードするキラーチューンだ。曲の後半ではギターポップの代名詞パパパコーラスも飛び出し、凄まじい多幸感が私たちの憂鬱を吹き飛ばす。バリ島での奇妙なドライブが描かれた詞も曲の疾走感を後押しするのだ。
3曲目「毎日のポートフォリオ」は2010年頃の山田氏のライブで披露されていた事を思い出す。弾き語り時の印象と大きく変わり、どっしりと構えた8ビートが心地いい。
4曲目「魔法があれば」はリヴァーブの効いたイントロが現行のドリームポップのように響くギターポップチューン。「許しあえる魔法」「通じあえる魔法」という言葉が印象的に響く、君と私の絶妙な距離感を描いた名曲。個人的に本作で1番好きな曲。
5曲目「夢の終わりまで」は先行シングルにもバージョン違いで入っていた曲。山田氏のソロ作「pale/みずいろの時代」を彷彿とさせる、水面をただよう青白いミディアムテンポのポップチューンだ。
6曲目「小さなハートブレイク」はコードとメロディが蜜月のように愛し合う、本作を代表する名曲のひとつ。''夢が醒めて 放り出されて 自分の胸の音で眠れなくて'朝を待つ'という内省的なフレーズに胸が痛くなる。だって私はこの感情を知っているし、そんな夜を何度も越えて生きているから。きっとこれからも。
7曲目「memoria」は本作の実質的なタイトル曲であり、ファンの間では古くからお馴染みの曲でもあった。長らく音源化が待たれ続け、山田氏のライブアルバム「DOCUMENT」収録を挟みつつスタジオ録音としては今回が初出。決して派手さはないものの、曲が展開するにつれ重なるコーラスは山田氏も認める今作のハイライト。
8曲目「houston」はVelvet CrushやHormonesも真っ青な柑橘系疾走パワーポップ。前々から「サテライト」のデモバージョンが大好きで、youtubeに挙がっていたものをよく聴いていたのだが、本曲はその最良の進化形であるように思う。どうやら山田氏も近しい意図で本曲を作ったらしい。
9曲目は「ホウセンカ」。これも山田氏のソロライブで聴く事ができた曲だ。GOMES THE HITMANがここまでスムースかつ豊潤な復活作をリリースできた一因として、間違いなく山田氏ソロ行脚があるだろう。バンドが停止した後も彼は止まることなく膨大な曲を書き続け、ライブを通して磨きあげ、ソングライティングの鮮度を高め続けてきた。「ホウセンカ」ではその残像も感じ取る事ができるのだ。
10曲目は「Night And Day」。本作はポジティブなパワーに満ちたアルバムであるが、詞からはやはり「mono」~「ripple」にかけて発露していた内省、喪失、心の深遠も感じることができる。また、最近ゴメスを「シティポップ」の文脈に加え評する傾向にあるが、その是非は置いておいても、サウンド的には本曲が1番所謂シティポップに近いとは思う。
11曲目は「悲しみのかけら」。本作中最もシンプルなアコースティックアレンジをとっているため、山田氏の歌を最も親密に感じる事ができる。本作はバンドのディスコグラフィーの中で最も「バンド」している作品であり、4人の音以外は極力排されているように感じる。それこそバンドのフィジカルが好調であり、自信に満ちている事の証左だ。
12曲目は「ブックエンドのテーマ」。この曲をラストに持ってくるとは、なんて心憎いんだろう。全文載せてしまいたいくらい詞が素晴らしい。懸命に生きていく過程で出会った人、別れた人、もう会えない人。いつかまた会えたらどんなに素晴らしい事だろうか。記憶の片隅で曖昧な顔をしている友人達、みんな元気だろうか。出会った人達を考える事は、自分の人生を慈しむ事とほぼ同義だと思うのだ。軽やかなアーバンソウルサウンドに乗せて、私は私が歩いてきた道を想う。みんなが元気で、そして幸せでありますように。

アルバムをざっと振り返ってみたが、楽曲のバラエティは驚くほど豊かだ。ともすれば散らかってしまいかねない曲群にはっきりとした筋を通す山田氏のメロディと、あくまで4人のアンサンブル。敷き詰められた沢山のセンテンス、通底するのは「軽やかさ」。それはつまり山田氏の意図するギターポップということだろう。ここまで瑞々しい鮮度を保ちつつも背景に豊潤な音楽的語彙を与えるのは、GOMES THE HITMAN以外になし得ない。
2019年の終わり、2020年の始まり。毎日を懸命に生きる市井のポップファン、その全てに本作が行き届く事を心から願う。
そして、遠い記憶の中にいる20歳の青年にも伝えたい。真剣に生きていれば、何とか生き延びていれば、私たちは2019年にGOMES THE HITMANのニューアルバムを聴く事ができるよ。そして、ここからまた沢山の素敵な何かが始まるよと。

Hi,how are you? 原田くんインタビュー

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Anorak citylights久しぶりのインタビュー記事は、8/28に5枚目のオリジナルアルバムをリリースするHi,how are you?の原田さんが登場です。
僕が彼らの存在を認識したのは、確か2013年頃であったと思います。彼らがゾンビフォーエバーというローカルレーベルからカセットをリリースし、クイックジャパン誌に原田さんのお部屋探訪記事が掲載され、ブログ「青春ゾンビ」でも同氏のインタビューがアップされるなど彼らが猛スピードで世間に認知されていくタイミングであったと記憶しています。
ギターに鍵盤という極めてシンプルな編成、様々なカルチャーからの引用オマージュが散りばめながらもそれらが輝く瞬間だけを抽出し磨きあげ独自の箱庭的詞展開を見せるリリック、ソングライティングの真ん中で手をつなぐ歌心とメロディ、付かず離れずの絶妙な距離感を感じさせるふたりの男女。
どれをとっても私の心&股関をわしづかみ。間もなくROSE RECORDSからリリースされた初期三部作(名作ぞろい!)を経て彼らの音楽はやがて私の生活の一部となり、ユニットとして迎えた少しの停滞→再開を横目に、原田さんのソロカセットも勿論ぬかりなくメールオーダー。大学を出て大人になっていく過程の迷い戸惑いさえも彼らの音源から勝手に感じ取りながら、かつて自分が抱きつつ今も胸にしっかり納めている'ブルー'を歌い続けているHi,how are you?はまるで1年に1度会う従兄弟のよう。YouTubeで公開されている彼らのドキュメンタリー動画「日直がずっと続いてるみたい」はどんな青春映画より眩しく、見終わる頃には一抹の喪失感が胸に刺さる至極の名作なので必見です。
今回、彼らが待望の5thアルバムをシャムキャッツプライベートレーベル'TETRA RECORDS'からリリースするにあたり、ありがたいことに原田さんにインタビューさせていただける事になりました。「shy,how are you?」、素晴らしいアルバムです。必ず発売日にレコード屋さんで買おうと思います。この記事を読んでくれる皆さんも是非そうしてほしいです。皆さんが皆さんなりの日直を続けていくための、心の中のブルーとの折り合いをつけるための、ちょっとしたヒントみたいなものがきっと見付かるはずなので。
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◯新作、聴かせていただきました。膨大なカルチャーネタとボーイミーツガールと駄目な僕が交差する箱庭的世界観がギターポップに帰結するハイハワとしか言い様のないソングライティングは健在なのですが、従来よりも強く ひとりぼっち感が強く出てる気がするんです。ラブソングでも、お互いが意志疎通できてなかったりどこがずれてるような印象を受ける。
''ほんとにそばにいたいなら、歌なんて作ってる場合じゃない?''(ブルーベリーガム)
っていう歌詞がそれを象徴してる気がして。
実際、本作の曲は何時ぐらいの時期に作られた曲が多いんでしょうか?

原田:なるほど、ありがとうございます!このアルバムに入っている曲は、大学を卒業してから京都に2年残っていたときに作った曲と、山形に来てから作った曲が半々くらいな感じですね。ちょうどアルバムの前半が京都時の曲、後半が直近の曲にだいたい別れてます(今気づきました、、)なので、ひとりぼっち感が強いというのは大学卒業後京都2年間の感じが出たのかもしれないですね。学校ないし家庭もないし暇じゃないし状態だったので(カーテンは部屋にありましたが、、心にもcar10はいましたし)ブルーベリーガムの歌詞の解釈は聴いてくださった方にお任せします!笑

◯実際、作詞作曲ってどういうシチュエーションで行われてるんですか?イメージだと、深夜に部屋でラジオ流しながら、ギター爪弾いて作ってるイメージなんですが。

原田:僕は詞と曲同時じゃないとできないんで、そんな感じですね。いまの生活リズム的には21時〜23時の間にギター触れるので、その2時間で出来なかったらもう出来ないです笑 あと後ろで音楽がかかってることはないですね、テレビならあるかも。歌詞のネタになりそうなものは出来るだけ普段から頭に入れるようにしてます、漫画とか本とか。

◯なるほどです。最近だとstella donnelyとかもそうですけど、オフビートで弾き語るスタイルのミュージシャンってどっかのタイミングでバンドサウンドに移行するケースが多いと思うんですけど、ハイハワはデビュー時から一貫してギターと鍵盤と歌のスタイルは崩してなくて。自分たちの間でこのスタイルに飽和感とか無かったりしないんですか?

原田:正直無いんですよね!この編成が好きなんです。ただ、次作で打ち込み入れるのは有りかなと思ってます。継続的にバンドをやるという事は一切考えてないです。特に音源では!ダニエルジョンストンのバンドものの音源が正直全然ハマらなかったんですよね。嫌いではないんですが。

◯なるほど、僕はHi,Killerpassも凄く好きだったので、ハイハワのバンドアルバムも聴いてみたりしたいなーと。ジョナサンリッチマンとかは弾き語りよりバンドの方が映える気がするんですよね、個人的には。

原田:たしかにジョナサンはバンドが映えますね!ギター持たなくても音楽になる人だからな。あと2人組が好きだというのも個人的にありますね。

◯新作に話を戻しますが、参考にしたレコードとか音源はありますか?「◯◯の◯◯みたいな雰囲気のアルバムにしたい」とか「◯◯◯の◯◯の部分を参考にした」とか。

原田:全体としてはandreas drauを一番参考にしたかもしれないです。シンプルにポップなんだけどどこか切ない感じ。あとはflying lizards、tangerine dream辺りになるかと思います、ややドイツ寄かつバンド的ではない音楽というか。かといってこのアルバムがエクスペリメンタルな音楽を好きな人に響くとも思ってはいないのですが笑 リフとか細かいとこだとmuffs、raspberries、style councilなんかになるかと。

◯おー、まさかのインスピレーション源ですね!面白いです。でも、確かに言われてみたらandreas drauと原田さんって共通する人懐っこい歌心ありますね。チャーミングというか。もちろんmuffsやraspberriesにもハイハワのニュアンス感じます。
少し話変わるんですけど、ハイハワの歌って特定の地域を想起させる事ってあまりなくて。地元や京都への帰属意識とかもあまり無さそうですけど、その辺りのローカル感覚が自分のソングライティングに影響与えることってありますか?

原田:なるほど。結局曲を作ったときに住んでいる場所だったり環境に影響されているので特定の地区へのレペゼン意識はないに等しいですね。強いて言うなら明大前でしょうか。あと、バタ臭くならないようにというのは心がけています。ユニコーン電気グルーヴの歌詞がそうであるように、日本人が「あぁあのこと歌ってんのね」となる歌詞というか。今回のアルバムの歌詞だと「クール便」とかその類ですかね。

◯住んでいた場所といえば、ハイハワはやはり京都の感染ライブや周辺の学生っぽいインディーシーンからでてきた印象が強くて。ただ、あれから数年経った今ではあのシーンの熱気は完全に沈下してしまったように思うんですよ。Homecomingsは爆発してますが。ハイハワの出自となった京都のシーンの当時と今について何か思う事があれば教えてください。答えづらいかもですが。

原田:なるほど!どうなんですかね?笑
たまたまあの時期に例のキリキリコンピと親和性のあるようなバンドが京都に何バンドかいたってだけじゃないすかね?たしかに感染ライブはなかなか面白かったですよ(というか感染ライブって名前死ぬほどダサいですね笑)
とりあえず京都は大学とライブハウスと喫茶店が多い、あとチャリがあれば事足りる、それだけは断言できます!

◯ハイハワの出自に京都や感染ライブが関わっているとして、あれから特定の枠に収まらず、シャムキャッツや曽我部さんやVIDEOTAPEMUSIC等とも親交を深めながらキャリアを紡いでいます。今回はなんとシャムキャッツの主宰するTETRA RECORDSからのリリースですが、それまでの彼らとの馴れ初めについて教えてください。

原田:まず、今名前が挙がった方達がみんなかまってくれてるのは本当恐縮です笑 シャムキャッツ とはホムカミの四国ツアーに僕がついていった時に知り合って、元々シャムキャッツ の「渚」の歌詞が凄く好きで、良い曲だなと思ってたんです。実際にメンバーと会って喋ってみたら気さくで話も面白くて、それから僕がシャムキャッツ がライブあったり関西来たりしたらいちいち顔出すようになったかんじですかね笑 夏目さんとは特に遊んでもらってるんでお中元送らないととは思っているんですが、、笑 大元たどればホムカミ経由で知り合った感じですね。なんか常に虎の威を借りてるようなとこあるみたいですね、僕は笑

◯TETRA RECORDSはてっきりシャムキャッツしか出さないのかな と思っていたので、ハイハワリリースのアナウンスには驚きました。が、なんかシックリくるところもあるというか。シャムキャッツもハイハワは歌詞は一曲完結で箱庭的な作りになっていますし、力入っててもユルく感じれるようなバランス感とか、わりと似てるなーと。TETRA RECORDSから出すって事が今回の作品作りに与えた影響ってありますか?

原田:TETRA RECORDSには本当に感謝してます!そもそもこのアルバムはTETRA RECORDSから出すと決まる前には既に録り終わっていたんですよ。音源ありきでリリースをどうするか考えていたんですね。なので、作品自体にはTETRA RECORDSからの影響はないと思います。ただ、今回はMVをロケ形式で撮ったので、それがこれまでのリリースとの違いになるかなと。過去作は既存の素材や、スナップぽい映像を使うことに興味が向いていましたので、エセノンフィクションからただのフィクションになっていってる感じです笑

◯なるほど。ちなみにTETRA RECORDS以外のレーベルから出す選択肢もあったんですか?

原田:なにも考えずに希望的観測を述べると、ナゴム、ATATAK、そしてKiliKiliVillaも直談判しに行こうかと考えていました。あとは、友人の佐野がやっているdot prompt。TETRA RECORDSから出しても面白いな~と思っていたので、本当に出せて嬉しいですよ。

◯インディーやパンクのリスナーやバンドにとって、 レーベル って拘りのひとつだと思うんですが、原田さんにとってレーベルという物にどんな価値観を持っていらっしゃるのでしょう?好きなレーベルとかありますか?

原田:正直レーベル買いとかはあまりしないんですよ。ただ気付いたら特定のレーベルのレコードがちょいちょい揃ってたってことは多々あって、クレプスキュールやチェリーレッドなんてのはそうですね。あとやはりK、muteやSarahなんかはずっと気になっているレーベルです。芯の部分で共通点を持ったバンドをリリースしているレーベルに惹かれるんでしょうね。Roseも勿論自分のなかでそのカテゴリに入ります。

◯なるほど、挙げていただいたレーベルのイメージとハイハワは遠からぬ場所にいると思います。
現状、原田さんの活動拠点が山形かと思うんですが、仕事しながら遠距離でバンドを続けていく今のスタイルにはもう慣れましたか?馬渕さんとはどのように練習や作曲をされるのでしょう?

原田:僕らは2人組ですし、曲もこっちが投げたものに対して馬渕さんは痒いとこに手が届く感じや予想してなかった感じのフレーズで返してくれるので、練習とかは大体ライブや録音の直近にやる感じなんです。それは今に始まったことじゃなく、京都で活動しはじめた時からそうなんですよ。だから遠距離て感じもなければバンドって感じでもないです。お互いに仕事してるんで、逆に予定組むのもスムーズです。

◯なかなか面白い関係性です。

原田:付かず離れずにやっていく感じは130Rを見習ってます。DonDokoDonやtake2にならぬように自戒しているつもりです。

◯分かりやすい例え!笑 原田さんは凄く大衆芸能とかトレンディドラマやアニメ、映画にも精通してるイメージがあります。それを作詞でアウトプットしていると思うのですが、そもそもそういったものは幼少時から好きだったんですか?

原田:人並みのテレビ好きですよ笑 そうですね、小学生半ばくらいから、''勉強や運動よりもテレビや漫画のことには出来るだけ詳しくいたい''と常々思いながら暮らしていた気がします。

◯音楽に没入するようになったキッカケもテレビですか?

原田:それもテレビなんですよ笑 ''学校へ行こう''から尾崎豊めちゃイケから氣志團、''はねトび''からサンボマスターといったかんじで、小4くらいからバラエティ経由で音楽に興味が向いた気がします。''美女が野獣''の主題歌だったスカパラの曲も好きでした。

◯なるほど、しかも尾崎豆とかブサンボマスター とかお笑いにデフォルメされた音楽がキッカケであったと笑 ただ、入口はそこであっても、より深く音楽にハマっていくキッカケってあったと思うんです。ブサンボマスターからSarahやナゴムにはどうしても繋がりづらい。今の音楽活動や作曲に至るに辺り、大きな影響となったアーティストは誰ですか?

原田:たしかに繋がりづらいですよね笑 しかしながらサンボマスターにしても氣志團にしても元ネタやルーツの掘りがいがある人たちだと思うんですよ。サンボマスターはソウルが土台ですし、氣志團ユニコーンだったりに繋がってくる。あともう一つでかかったのが漫画のBECKです。あれに相当いろんな音楽を教えてもらいました。BECKの扉絵はジャケパロの宝庫なので。 話を少し戻すと、結局サンボマスター氣志團TSUTAYAでCDを借りてMDに落としていたんです。そのTSUTAYAライフの中でサザンだったり銀杏BOYZだったりを更に知ることになりました。 作曲というかコード感に限れば、桑田、民生、峯田さんとかが大きな影響源になるんじゃないですかね!
あ、そうそう、バンドスコアの有無はでかいと思います!銀杏BOYZもがっつりスコアがあったし、スコアに付随した全曲解説もめちゃ読んでました。

◯曲解説読みたさに、楽器弾けないくせにゴイステのスコア買ってた学生時代を思い出しました笑
実は聞きたかったのは銀杏BOYZのくだりで、自身の曲にちょろっと名曲のフレーズ引用したりとか、歌詞に固有名詞を頻出させたりとか、峯田さんの影響が強いのでは?と勝手ながら思ってたんです。

原田:なるほど。固有名詞が大量に出てくる歌詞が好きなので、影響はあるかもしれませんね。ただ、最近はユニコーンの歌詞についてずっと考えています。ある種シチュエーションコメディ的な曲が山ほどあるので、自分もああいう歌詞がかけたらなと思っています。
''三年二ヶ月の過酷な一人旅''って歌詞、それまでの流れからそれずに一節の中でサビ前にカウントダウンしてるのとか凄すぎるなと思って。あとは忌野清志郎の歌詞も凄いですよね。歌詞カード見てるだけで面白くて。

◯そうそう、先日送っていただいた歌詞カードのデータを見ていてハッとしたんですけど、今作のハイハワは単純に詞としても見映えが美しいんですよね。特にメロンソーダの詞は1番好きかもしれません。

原田:メロンソーダ!嬉しいです、ありがとうございます!

◯歌詞やタイトルの話から少し派生すると、今作のタイトルはshy how are you? です。アルバムのタイトルは毎回どのような基準で決めるんですか?

原田:なんかしらアルバムに入ってる曲目から文字ったりまんま使ったりですね。アルバムを総括してるぽいやつを選んでます!

◯なるほど。ハイハワはデビュー時から一貫してセルフプロデュース、アルバムは安心のクオリティをキープしています。今後、例えば外部のプロデュースやらを受けたい願望ってありますか?

原田:あります!プッシーさんと話していたのは、NOT WONK加藤くん、すばらしか加藤くんのdouble k corporationですね。あと浮かぶのは曽我部さん、土屋昌巳、mattew sweet、ジョルジオ・モロダー、half sportsくわはらさん、布袋寅泰、以上です。普段使わない楽器をプロデューサーの人に入れまくられたい願望はあります。ただし生ドラム、ベースは入れない!という条件で笑

◯なぜそこまであえてビートレスに拘るんでしょうか?

原田:ベースとドラムがいると、練習するにもスタジオを借りなくちゃいけないし、お金がかかりますよね。僕は練習にお金がかかるってことに疑問しかなかったんです。低予算が過去から今までずっとあるテーマですし、馬渕さんとはカラオケで練習することもよくあります。DIYではないんです、どちらかといえばただケチなんです。とはいえ打楽器は入れてもいいかなと最近は思ってるんですよ、それが新作で試したことでもあります。


◯ありがとうございます。原田さんの生活と音楽のバランス感についても聞きたいんですよ。同世代の人たちは就職したり環境が変わったりで音楽をやめた方もいらっしゃると思うんです。でも、原田さんは変わらず歌ってる。継続している。音楽を続けていくという事は、原田さんにとって至極当然のことでしょうか?

原田:んー、意識的に続けてるというわけでもないんですよね。単純に自分がテンションが上がるような曲を割と自分の為に作っていて、それをたまたま他の人が聞いたらどんな反応が返ってくるのか?という率直な好奇心でやっています。だから音楽活動での目標とかもないですし、絶対に続けていきたいという気概もないです。本当に自分がいいと思える曲が録音物として残せればそれで大満足です(それが難しいのですが)
あと僕は単純に馬渕さんの声と、鍵盤のファンなんで、馬渕さんと活動しているということも、僕個人としては最高に贅沢なことです。馬渕さんが辞めたいって言ったら辞めると思うし、ただ僕は辞めたいとは思わないと思います笑

◯やっぱり働きながら音楽をやるって物理的にも金銭的にも大変だと思うんですよ。原田さんは飄々としてますけど、やっぱり音楽めちゃめちゃ好きなんだろうなーって思います。プレイヤー体質ですけど、ヘビーなリスナー体質というか。だからこそ自分の曲もある程度俯瞰的に見れていて、良い曲が作れるんだろうなーと。馬渕さんが就職した時が割りとひとつのターニングポイントだったと思うんですが、原田さんは止まることなくソロでカセット作ったり各地でライブを敢行していて、ファンとしてはただただ嬉しかったですよ。

原田:馬渕さんが就職したタイミングは今振り返るとかなりしんどかったですね。馬渕さんがどうとかではなく、自分は音楽で食える可能性はあるのか?食っていくとして何をすべきで何をしたくないのかみたいなことを考えていました。僕なりのアウトプットとして、マンスリーの企画やカセットのリリースなんかを小規模ながらやりました。今思えばあの時期があってよかったです。あと、その時期にいつも録音してくれてる馬場さんがかなりフォローしてくれたんで本当に感謝しています。

◯紆余曲折あり清も濁も飲んだハイハワだからこそ、これからもマイペースに活動を継続してくださることを望んでます。
最後の質問です。原田さんにとってハイハワってどんな存在でしょう?今後ハイハワ以外のユニットやバンドをやりたい気持ちはありますか?

原田:難しいですね、ツールですかね笑 冷めた意味で言ってるわけではなく、自分がやりたいことを存分にできる僕仕様のわがままなツールって感じでしょうか。単発では色々やりたいですが、長い目でやりたいのはHi,how are you?です。現段階でアルバム2枚分の構想があるので、三年以内にその2枚は出したいですね‼️

◯次のアルバムもその次も楽しみにしてます。最後に、全国のハイハワクラスタに一言メッセージを!

原田:
最後まで読んでくれて1009💘あばよ!


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(8/28全国のレコード店で発売。買ってね!)

小袋成彬とSEVENTEEN AGAiN 分離派の脅威

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小袋成彬という音楽家がいる。宇多田ヒカルプロデュースによるアルバム《分離派の夏》をリリースした、気鋭の人物だ。枕詞が目立つ事もあり、随分話題である。彼のバイオグラフィはこの際置いておこう、誰もが彼を認識しその挙動に固唾を飲んでいるものとして話を進めたい。
彼の音楽性や歌詞の世界観への言及やも今回はなるべく省略する。とても重要な標題であるが、これも今は必要ないと思えてならない。ひとつだけ言わせてもらうならば、彼の音楽を所謂インディーR&Bや諸々の文脈だけで語る事は、あまりに面白くないという気持ちは確かにある。
とにかく僕は《分離派の夏》がリリースされてからというもの寝る間も惜しんで聴いており、通勤中や休み時間等にはインタビューやらレビューやら彼についての文献を片っ端から読んでいるところ。最大の興味は、《表現の対象》つまるところこれだ。《誰に向けて歌ってるの?》ってこと。僕にはとってこの標題はある意味歌詞の中身よりも重要で、できるだけ自分に近しいポジションへの発信を望んでる。これは《共感》やその類いの言葉で形容してくれても構わないし、その音楽への理解に当たり必要であるものと捉えている。
オホン。話を本筋に戻す。realsoundのインタビューで僕の疑問に対する答えが明示されていて、《自分のために曲を作っている》という発言があった。《本当にそうなの?》と僕は思う。僕にはこの作品が自分の内側だけに向けられたような閉鎖的なものには思えない。もちろんある種の内省は含んでる。大いにあると思う。でもそれは他者との繋がりを否定する類いのものではないし、個として自分自身と徹底的に向き合った時に生じる摩擦程度でしかないはずだ。《自分のため》と言い切れるほど、自己完結できるほど収まりが良い作品じゃないように思えた。
歯痒さを抱えながらも彼の音楽を聴き進め、文献を漁っていたある日、突然それは府に落ちた。《SWITCH》でのインタビューが摩天楼の雪を溶かしたのだ。こんな問答がある。

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インタビュアー『タイトルの"分離派"の定義とは?』

小袋『社会に溶け込んでいながらも、違和感を抱えた人を指したつもりです』

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僕は思わず膝を打った。彼のいう《分離派》が彼の発言が意図するそのままだとしたら、《分離派》は恐らく彼自身のことだし、多くの友人のことだし、社会と対峙しながらも《現状への違和感》を常にもて余す我々のことだ。
僕は《自分に向けて曲を作っている》という彼の発言を、《自分と同じような多くの人々に向けて曲を作っている》と翻訳する。そうでなければ、《分離派の夏》がここまで多くの人々に受け入れられる理由付けができないじゃないか。決して強引な解釈ではないと願う。
さて、この《分離派》について歌い続けているソングライターを僕はもうひとり知っている。厳密にいうと、彼は《分離派》という言葉を一度たりとも使っていないはずだ。だが、その《表現の対象》はまさしく《分離派》の領域に限りなく近い。
立っているフィールド、世代、音楽へのアプローチ、言葉の捉え方、アティチュード、身長、家族構成、生きざま。全てが異なるものの、彼自身が《分離派》であり、それを《少数の脅威》とも読み替える音楽家SEVENTEEN AGAiNの藪雄太である。
デビュー以来彼は一貫して、《あらゆる人間が抱えるズレ、違い、差異、違和感、歪さ、その他マイノリティとなり得る要素を全面的に肯定する》歌を紡ぎ続けてきた。僕達の体は、この世界で暮らしていながらも決して一言では括れない複雑なそれで構成されており、ひとりとして同じ個体はない。だからこそ誰もが《少数》を内包するし、《孤独》であるし、《何かしらの違和感》を持って生きている。それこそがつまり《分離派》の指すそれとほぼ同義であるように思えるのだ。
藪雄太は《分離派の夏》を熱心に聴いていると語っていた。そこに前述したような因果はないかもしれない。
それでも、だ。それでもなのだ。小袋成彬SEVENTEEN AGAiNがより大きなフィールドで鳴らされることを僕は夢想するし、そうなるべきだと心底思う。だって我々はこんなにも孤独で、静かな違和感を胸に生きているのだから。
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