Anorak citylights

レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

山田稔明"新しい青の時代"と私

2013年。日本のポップミュージックの熱心なリスナーにとって、こんなに幸福だった年はないだろう。
素晴らしいポップソングを作り上げるためならば、所謂ロックバンドのフォーマットを逸脱することに躊躇いはない。バンドだとかアイドルだとかDJだとか、発表する形態さえなんだって良い。とにかく曲の良さが何よりも優先されるべきだ。
そんなポップミュージックの意志(意地)みたいなものに導かれて巡った2013年の四季、2番目の季節。夏。決定的なアルバムがリリースされた。
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山田稔明"新しい青の時代"

僕は彼を小沢健二をも凌駕する、稀代のソングライターだと信じて止まない。
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山田稔明はゴメス・ザ・ヒットマンのシンガーソングライターとして1999年にメジャーデビューしている。
当初は、ネオアコギターポップを基盤にした清涼感溢れるメロディアスな楽曲を作り、多感な若者の日常における心の機敏を文学的に歌詞に落とし込んでいた。
その繊細な歌唱と文系っぽい佇まいもあいまり渋谷系の残党として消費されていたとか何とか。
今の数十倍は感受性豊かだった大学時代、僕は既に活動を休止していたゴメス・ザ・ヒットマンと出会い打ちのめされた。
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2005年リリースの5thアルバム"Ripple"

カントリー、フォーク、ブルース等の土臭いアメリカーナな土台に、ジムオルーク的なふくよかな音響効果もちらほら。そこに山田さんの書くメロディが絡んでギターポップ的な清涼感が生まれる、日本語によるポップミュージックの最高峰だなこれって思ったわけ。
当然、過去のアルバムも全部漁った。"weekend"の甘酸っぱさは学生時代、時間ばかりもて余してた煩悩まみれの僕とシンクロし、音楽にまみれた青春を加速させたのだ。

そんでもってバンドが休止後、満を持して発表された2枚のソロアルバム。
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2009年リリース"pilgrim"

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2010年リリース"home sweet home"

この2枚の素晴らしいアルバムについては後日語る機会を持ちたいが、これらを経て2013年にリリースされたのが今回の主題としている"新しい青の時代"である。
前作でみられたアメリカーナ路線に大きな変更はない。
が、より多彩な音色が塗り込まれている。ピアノ、フルート、バンジョーマンドリン、ハープ等、ロックバンドのフォーマットに縛られない様々な音色があらゆる場面で高らかに鳴っている。これは近年盛況を極める東京のインディーポップともシンクロしているのでは、と思う。昨年素晴らしいアルバムをリリースした"森は生きている"や、インディーポップをレペゼンする"cero"もバンドフォーマットに縛られない自由自在な楽器の導入で楽曲を色付けている。
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話は少しそれたが、ここに納められた10+1曲の輝きの前では、僕の独りよがりな御託など作品の魅力を引き立てる助けにならない。その上で少々の御託を。

なにひとつ新しいことはしていないのに、歌われる言葉に手垢は無く、メロディは眩く瑞々しい。何故、あらゆる音楽のフォーマットが出揃ったこの時代にそんなことが可能なのか。平凡な毎日の暮らしを歌っているはずなのに、全然平凡なソングライティングでないのは何故か。

うまく説明ができない。もどかしい。山田稔明は"歌詞とメロディ"の人なのだ。些細な日常の一瞬をまるで映画の名シーンのような切り口で表現する彼の詩人としての才能には舌を巻く。メロディは丁寧に、緩やかに、半世紀続くポップミュージックの成果を一小節で表現する。
歌詞はメロディを、メロディは歌詞を求めている。まるで男と女のように。結び付き高まる瞬間を待っている。
彼はまるで科学者のように、晴れた日の青空と雲のように、メロディと歌詞の配合を繰り返し、その2つが美しく鳴るためのあらゆる可能性を排除せず、最良の形で音楽にする術を知っている。
あまり使いたくないが、天才 なのだろう。
どの曲の中心にも彼の歌があり、多彩な音色は全て従順なしもべのように彼の歌を守る。あの潔癖な小沢健二が不安定でも自らの声で歌ったように、どんなに曲が複雑化しても自らの歌を最も大切にした佐藤伸治のように、"新しい青の時代"で感じる清涼感=青は彼の歌に集約されている。
ポップミュージック最良の形。僕は山田稔明の歌に出会えて良かった。
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