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Anorak citylights

レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

山田稔明(gomes the hitman)と私~後編

山田稔明特集、後編です。
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山田さんおよびゴメスは、正式なスタジオアルバム以外の音源が多く存在します。多くは2~4曲入りのepサイズのCD‐R音源。山田さんが自主製作した代物で、ライブ会場や通販限定で買えました。
僕も2009年のソロデビュー以降の自主音源についてはほぼ揃えてありますが、ソロデビュー以前のもの(song limboやインストアライブ特典等)については全く見つかりません。どなたか、コピーしてくれる方はtwitterID takucity4までよろしくお願いします(切実)!
さてさて、今回の後編では僕の所有する山田さんソロの時代、自主製作ep含めた二十数枚全てレビューしようと思っていましたが、去る5月5日にリリースされたニューアルバム”緑の時代”において、自主製作epのみに収録されていた多くの名曲が再録されました。よって、今回は主要となる5枚のアルバムディスコグラフィーを紹介します。自主製作のepシリーズ等は番外編として次回に。

"pilgrim"
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"携帯、鍵、財布とカメラ、飴玉いくつかと読みかけの本"僕は今、旅に出る支度をしているところ。"人生とは旅である" そんなありふれたメタファーが言いたいのではなく、遠くへ行く時にはそれなりの準備がいるということだ。指差し確認をしよう、旅するために本当に必要なものとそうじゃないもの。
本作は4年もの歳月をかけて製作され、2009年にリリースされた山田稔明のファーストソロアルバム。"旅路"をテーマとしたコンセプト作だ。ここに収められた10のポップソングは自由を目指している。バンドという枷から放たれた音楽家の柔らかい狂気が作り上げた最大の成果、否、聖歌のようでもある。gomes the hitmanとしてのキャリアに敬意を払いながら、しかしながらバンドでは実現できなかったようなエレクトロニクスの力を借りながら、デスクトップの上で産声をあげた清らかなポップス。彼はこのアルバムの中から呼びかける。"街を出よ、手に歌を持って" 必要なものだけを詰め込んだ旅行カバンはまさしく本作のようであり、あとはそこに旅先での思い出を詰め込むだけなのだ。"人生とは旅である"ありふれたメタファーの意味を変えていく。旅にこそ人生が宿る。彼は再び音楽で人生を語り出した。

"home sweet home"
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ドヴォルザーク交響曲第9楽章の2番には家路という名前がつけられている。誰の記憶にも存在する原風景のような曲だろう。それは学校の下校時に多く使われ、少年たちが家に帰るまでのサウンドトラックのようであった。家に帰るということはどんな風だろうか。柔らかなオレンジ色の光、カレーライスと香辛料の匂い、食器を洗う音。ドアを開けて"ただいま"と言えば当たり前のように"おかえり"と返ってくる。旅を終えて丸々と太った旅行カバンのチャックを開け、新たに連れかえった思い出と過ごす夕食の時間。それは幸福という名が付くものであろう。家に帰るということは幸福への回帰であった。
本作のテーマは"家路"だ。気のおけるバンドメンバーと有機的に作られた、生バンドサウンドだけのアルバムだ。カントリーやフォーク、スワンプを素材にギターポップのコード感とメロディで味付けられた10のポップソング。そこから確かに匂い立つ雄大で幸福な響き。ソロ初作としての気負いがみなぎる故か計算尽くされた隙のない前作に対し、本作はどこかリラックスした空気を持っている。夕食ができるのを居間で待っている時や、寝る前にベッドの中で小さな音で聴くのに適していて、彼の作品で最も再生回数の多いアルバムだ。

"Christmas songs‐standards and transfers‐"
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クリスマスはポップスのテーマとして常套であり、その多くが恋愛を絡めて過剰なまでのロマンシズムを伴う。浮き足だったような、人工甘味漬けのケーキのような、そんな歌ばかりだ。
山田稔明が年々録りためてきたクリスマスソングのクラシック曲(それはマライア・キャリーワム!よりもっともっと古くから歌い継がれてきたものばかりだ)をアルバムサイズにコンパイルしたものが本作となる。
2枚のソロアルバムを経た先の一手としては少々肩透かしであると言えるかもしれないが、本作の持つ風通しの良さは無視できない。全ての演奏を自身が担当し、ピアニカやリコーダーの鮮やかな音色がフィーチャーされた 所謂トイポップアルバムとしても機能性が高い。また、自作曲という縛りを解き全編がクリスマスソングのスタンダード曲で占められたアルバムだ、自ずと”歌手”としての山田稔明の声の魅力を再発見できる事になる。
そして恐ろしい事に、クリスマスソングの名曲と比較しても山田稔明の書く曲の方が遥かに魅力的であることも本作は証明しているのだ。
暖かい我が家で迎えたクリスマス、お腹もいっぱいになったし話疲れたし本当に楽しかった。もう寝ることにする。爛々と灯されたキャンドルが消え、夜更け過ぎに聖夜は終わる。いよいよ訪れる次の時代に、クリスマスなんて直ぐに忘れてしまうよ。

"新しい青の時代"
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かつて小沢健二が呼び込んだ"青の時代"、それは市井の若者が作り上げたポップソングによる革命だった。素晴らしいポップソングは世界を変える。素晴らしいポップソングのみでしか生まれない感情があり、変えられない世界がある。それはことのつまり、"ポップスの在り方を更新する"行為にほかならない。
美しい言葉と美しいメロディによる人生の肯定。それこそが小沢健二のソングライティングの本質であり、"青の時代"の呼び水であった。山田稔明は小沢健二以上の心意気とソングライティングの才によって、再び"青の時代"を再現する。"旅路"と"家路"の巡回を終え、再びポップソングが世界を変える時が来たのだ。決して言い過ぎでは無いと思う。"一角獣と新しいホライズン"が、"月あかりのナイトスイミング"が、世界を変えるために生まれたのでなければ、こんなに美しいポップソングである理由付けができないじゃないか。
山田稔明史上の最高傑作、"新しい青の時代"はポップスの在り方を間違いなく更新する。もう小賢しいマーケティングも大企業の資本も今週のパワープッシュもいらないのだ。素晴らしい曲のみが音楽の全てである、鮮やかなブルーのジャケットがそれを示している。

"緑の時代"
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若葉の季節に突如としてリリースが告知されたシングルコンピレーションアルバム、”緑の時代”。
”青の次は緑”本気なのかシャレなのか分からないタイトルに困惑しながらも明かされたその全貌は 山田稔明的裏ベストアルバムであった。現在は廃盤となっているCDRシリーズに散りばめられた名曲達が装い新たにアルバム化。これがもう本当に良い作品で、ポップで爽やか 新芽のような風通しの作品。アートワークはR.E.Mの名作”GREEN”を敬意を込めてコピー、中も外も緑尽くし。
学生時代に書かれたカレッジロック”僕たちの旅~自己嫌悪97”、無意味も繰り返せば意味を持つ怪佳曲”サニーレタス”、フィッシュマンズを彷彿とさせる”ココロ/コトバ”、Sarah直系のアコースティックポップ”high tide”、圧倒的な光を放つ名曲”夢のなかの音楽””新世界のジオラマ”等、”下手したらこれ最高傑作なんじゃないの!?”と思えるくらい。膨大な製作期間を要し様々な演者を迎えキャリア最高傑作故の重厚な響きを持った前作に対し、山田稔明ひとりで作られた本作が持つ軽やかさも同等に素晴らしい。


こんな感じで山田稔明さんシリーズは一区切りです。
ひとつ声を大にして主張したいのは、gomes the hitmanは最高だけど今の山田稔明さんは本当にとんでもないぞ!ってこと。大言壮語も吐いたかも知れませんが、聴けば分かります。
Epシリーズや朗読アルバム等をまとめた番外編はかなりのマニア向けになる予定です。気長にお待ちください。
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