hi,how are you?”?LDK”と角質の話
寝室にて、彼女が何かクリームのようなものを必死にかかとに塗りたくってた。
ピンク色のフワフワしたパジャマに身を包み、小さな体を折り曲げて、コッペパンみたいな足に。
僕はスピーカーから聴こえるsmall facesのビートで指をクラゲみたいにふにゃふにゃさせてる。
「何してるの?」
僕の問いに彼女は答える。
「かかとの角質をとってるの。」
「へえ」
かかとの角質が、あの白いクリームでとれるのか。そいつは凄いことかもしれない。
というか、かかとの角質をかかとにくっつけたままじゃダメなのか。何故クリームでかかとの角質を除去するのか。
僕は28年間で1度もかかとの角質をいじってないからさぞかしかかとは汚かろう。そのクリームを僕の足に塗れば、28年間分の角質がとれるかもしれない。28年間の角質。生まれてから今までの角質…。
僕は急に自分のかかとが恋しくなり、思わず手のひらで暖める。28年間生きていて、一番かかとを大事にした瞬間だ。
やがてクリームを塗り終わり、彼女は満足気に布団に潜り込んでくる。
僕はi podをいじり、 最近購入m という名のプレイリストを再生する。スピーカーからは気の抜けた歌声と、ガチャガチャした単音のエレキギター。上手いのか下手な分からないし、これが聴きたかったのかさえ分からない。
Hi,how are you?という名の男女デュオの名前を知ったのはそう昔ではない。モルタルレコードで売られてたzombie foreverという山形のレーベルのホームページから彼らの名を探しあてた。
絶妙なアマチュア感と、ほんわかしたメロディ、シンプルなアレンジ。半径1メートル以内の事しか綴れない歌。
大学の時 片想いの後輩に渡したミックスCDや、ココア片手に夜中までマリオカートした友達の家や、放課後の黒板と落書き のような、僕の中に溜まったままの別に大切でもない思い出がそのまま音楽になったみたいで、少し気恥ずかしいし嬉しい。
28年間僕のかかとにくっついてる角質を想いながら、少し昔のことを思い出しながら、これからのことを考えながら。角質を音にしたら、きっとこんな感じ。hi,how are you?