Anorak citylights

レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

夕暮れーしょん

iPodを壊してしまった。
一見よくある日常の損失に思えるかもしれないが、僕の心身に与えた被害は甚大だ。
僕は2台のiPodクラシックを容量いっぱいまで使っており、そろそろ3台目の購入を検討していたところであった。
実に10000枚以上に及ぶ僕の所有音源のほとんどが2台のiPodに収められており、こいつがあれば僕はいつでも実家のレコード棚にアクセスできたわけだ。愛していたのだ、間違いなく、2台のiPodを。

それは日曜日のことだった。自宅で夕食を支度している嫁を尻目に、僕はTSUTAYAへ向かうため車を運転していた。無論平日観賞するためのアダルトビデオを調達するためである。スマホではなくテレビの大画面で見るアダルトビデオを目一杯享受するために。車内ではiPodをステレオに繋ぎ、音楽をかけていた。このiPodを1号としよう。確かかけていたのはMan is the bastard!だったと思う。肩を揺らし道を歩く女子高生に目線を送ったり何だりをしながらTSUTAYAを目指していたのだ。
そうしてふぬけた顔した僕を運転席に乗せたN Boxは快楽の根城TSUTAYAにたどり着く。音楽を止めiPodを取り外し画面に目をやった瞬間、僕は凍りついた。
"ミュージックがありません"
確かこんな文言だったと思う。数万曲は入っていたはずだ、1号の音楽データが消えている…。あまりに突然の出来事に僕は声が出なかった。ちょっと待て、僕は車のステレオでiPodを聴き、それを外すという何百回繰り返した動作を行っただけだ。ほんの数秒前まで僕はMan is the bastard!を聴きながら"やっぱノイズコアってシラフじゃ聴けねえや"なんて吹かしてたはずである。思わず崩れ落ちる僕を嘲笑うかのように店内からはきゃりーぱみゅぱみゅが流れてくるのだ。
"もったいない もったいない ほら一緒に もったいないとらんど!"
1号はいつだってそばにいてくれたのだ。楽しい時も 悲しい時も 仕事に行くのが嫌で駅前の広場で時間をつぶしていた時や 好きな子と大洗の海へ行った帰りに真岡のデパートの屋上で花火を見た時や はじめて降神を聴いて志人のフローを真似して歩き通行人に避けられた時や Lolasのカバーアルバムを探して高円寺から祖師ヶ谷大蔵まで歩いた時も知らない女の子から人違いでチョコレートをもらった時も 僕のポケットの中からいかした音楽をチョイスしては日常を彩ってくれたのだ。実に5年以上の長きに渡る付き合いだった。
僕は半年ほど前に実家のパソコンを壊しており、iTunesに保存していた6万曲のデータを消失させていたため、1号に入れていた4万曲近いデータ(うち1万曲分は曲尺1分以内のショートチューンだ)を再生するためには、実家のレコード棚に眠る膨大な音源達を再びiTunesに入れ直さなくてはならない。社会人として家庭を持ち1週間のうち60時間を会社で過ごす身として、それは不可能に近い。
まるで長年連れ添った彼女にフラれた気持ちで、精神と時の部屋から帰ってきたような気持ちで、アダルトビデオを選ぶ気力も失った僕は再び愛車に乗り込み帰路につく。僕に残されたのは2号だけ。3年前の夏のボーナスで買った2号だけ。ここには2万曲弱しか納められておらず、ここ3年で購入した新譜中心のラインナップとなっている。そのため、『今夜は何だか寂しいから大学入りたての時よく聴いてたmineralのファーストかelliottのセカンドが聴きたい』だとか『昔の彼女が好きだったlolasのセカンド聴きながらティムボイキンの真似がしたい』だののニーズに応える事ができないわけである。
激しい失意の中家に帰ると、嫁がミツメのポスターを下敷きに干し芋を作っており、笑うしかなかったわけである。
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