Anorak citylights

レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

THE FULL TEENZ伊藤くんインタビュー

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2016年の初夏にリリースされたファーストアルバム「ハローとグッバイのマーチ」より4年、遂にTHE FULL TEENZが待望のセカンドアルバム「タイムマシンダイアリー」をリリースする。
モラトリアムの先に広がる深い森に出口を見付けた彼らが鳴らす至極のメロディー、特定のシーンにもたれる事なく展開されたライブで強力にビルドアップしたバンドのフィジカル、渡り廊下で先輩を殴れなかった僕の詞は夢の轍、世界中でたった独りだけの君に届く。
Anorak citylightsではなんと4回目のインタビューを敢行。彼らと実際に話した事こそ殆ど無いに等しいが、私は彼らの動向を注視し続けてきた。だからこそ本作のリリースは感慨深いし、またこうして対話を記事にする事ができて嬉しい。THE FULL TEENZ、凄く好きなロックバンドなんだ。
彼らの歩む道が光溢れるものでありますように。

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まずは前作にあたる2016年作の「ハローとグッバイのマーチ」の総括からお話を伺えればと。あれから4年近くが経ち、リリース時とは違った見え方ができているのではないでしょうか。

伊藤:前作は僕らにとって初めてのアルバムだったので、高校生の頃に作った曲から今のスタイルに繋がる2015年頃までに作った曲がまとめて収録されていました。いわば初期ベスト的な感じだと捉えています。
僕の生活的にも、学生から社会人になるタイミングがレコーディング〜リリースの時期と重なっていたんです。
たまに聴いて当時の気持ちを思い返したりしますが、やっぱりあのタイミングでしか作れなかったアルバムだなと思います。今作ろうと思っても絶対に出来ない。
あとはKiliKiliVillaの安孫子さんと、あーでもないこーでもないって夜な夜な連絡を交わしながらmixした日々は単純にプライスレスだったなと。

パンク外のリスナーにも幅広くリーチできた作品だと感じています。あのアルバムがあったから、シーン関係なく多岐にわたる活動を行う足掛かりになったというか。名刺がわりとして最良だったと思います。
伊藤:僕もそう思います。あとはファーストアルバムの制作が、僕自身が本当にやりたい音楽を見つけるきっかけにもなりました。
そもそも僕が音楽に夢中になったきっかけはBEAT CRUSADERSなので、ポップで明快なものが好きという気持ちが根底にあります。メロコアを青春時代に聴いていた期間が1番長いってことも事実です。でも、大学に入ってからしばらくはメロコアとかを好きだった自分を黒歴史のように感じてしまっていました。

なぜそのように感じてしまっていたのでしょう?

伊藤:I hate smoke recordsのバンドに出会えた事や、感染ライブ等アンダーグラウンドなパンクのカルチャーに出会ったからだと思います。
THE FULL TEENZの曲も短く展開が激しいものに変わっていきました。それと同時に、JET SET等で海外のレコードを買うようになったり、同じ大学だったSeussのメンバーたちと遊ぶうちにアメリカやイギリスの現行インディーロックを聴くようになりました。
その結果できた雑多な曲が、ファーストepの「魔法はとけた」に入ってますし、「ハローとグッバイのマーチ」にも入ってますね。

当時の伊藤くんが1番カッコいいと思えるような曲を作れていた。

伊藤:I hate smoke recordsや京都のインディーバンドたちと出会い始めたころは、自分の好きなバンドの人達に好かれるようなバンドになりたいとか色々下心みたいなものもあったと思います。

ファースト以前のTHE FULL TEENZは雑多な音楽をやや強引かつカラフルにまとめあげていましたが、「PERFECT BLUE」や「ビートハプニング」等の新曲群は焦点が定まっている印象を受けていました。

伊藤:そうですね。「PERFECT BLUE」によって、メロコアをルーツにしてた自分、「ビートハプニング」によって、ポップなものを好きな自分に正直になれた気がしますね。余計な縛りとかを考えずに曲を作ったら、自分の本当に好きだった3分くらいのポップソングができるようになってきたんです。それがセカンドアルバムに入っている新曲にも直結していきます。

僕がセカンドの曲群を聴いて最初に想起したワードは「パワーポップ」でした。でもメロディやアレンジのあちらこちらにライトメロウや現行インディー等の要素が染み込んでいて、それがまさにTHE FULL TEENZのサウンドとして確立しています。

伊藤:ファーストでそれこそ今までの持ち曲を全部出してしまったので、セカンドは完全な更地からの曲作りでした。先ほどお話した通り余計な縛りを自分の中で取っ払ったとは言え、クオリティとしては全曲ファーストを超えていないとアルバムにする意味がないと思っていたので、そういう面では曲作りにすごく時間がかかりました。
THE FULL TEENZで一番大事な要素は何かを考えた時に、とにかくメロディーが良い曲を沢山作りたいと思ったんです。
なので、アレンジについては相変わらずバリエーションがありますが、音作りはファーストに比べるとだいぶシンプルになっていると思います。全てはメロディーのためです。

ギターのコード等も基本的にはメロディに忠実かつ引き立てるようになっていると感じました。また、以前から伊藤くんのメロディは自身のルーツであるパンクやメロコアのそれとは全く異なるセンスを持っていると感じていたのですが、本作でそれは確信に変わりました。このメロディはどこからくるのかなと。
伊藤:どこからなんですかね?笑
やっぱり根本にJ-POPがあるんだと思います。物心がつき始めた頃の90年代〜00年代初頭までのポップスは根底にあります。今でもカラオケでその辺の年代別メドレー全部歌えるかも知れません 笑
あと、レコードで言うと和モノの70〜80年代のライトメロウやシティポップみたいなやつを1番買います。これを思春期に聴いてたメロコアのスタイルに無意識で落とし込んでるのかもしれません。

ここからはアルバムの曲を順番に見ていきましょうか。まずは1曲目、「i cherish i」。弾き語りで始まりバンドサウンドに入っていくアレンジは意外と無かったんですよね。

伊藤:そうですね、アルバムの冒頭は1番生っぽく始めたかったんです。ありのままの自分と、メロディーと、アコギだけで。この曲の歌詞がセカンドアルバム全体を通して、さらには今の自分たちのバンドをやる理由を明示してる内容になってます。だから1曲目にしました。

君と僕にはなれない僕らは、と歌いだしからいきなり強烈ですよね。 バンドをやる理由を1番明示してる という部分について、もう少し具体的にお聞かせいただきたいです。

伊藤:この曲ができた背景を話します。ちょうど1年前の今頃(2019年の1月)に、自分が大好きで昔から憧れていた方とガッツリ話す機会があったんです。彼との会話の中で、自分の小ささに気付いたというか。それまでの僕は、どうしても彼を憧れの対象として見てしまっていたんです。
でも、彼は知名度も活動規模もまるで違う僕らのことを対等なバンドマンとして接してくれていることに気づいて。だからこそめちゃくちゃ現実的かつ厳しい言葉もいただいたんです。それが悔しいのと同時に嬉しくて、その場でボロ泣きしてしまって。
もう誰かに憧れたり、誰かになろうとすることはやめて、本当にありのままの自分たちをいかにバンドで表現できるかという事だけを考えようと、その日自分の中で誓いを立てました。それが、「i cherish i」です。自分たちに対しての宣誓の歌。

そのお話、セカンドアルバムのサウンドが大幅にビルドアップされ、かつ確実に「THE FULL TEENZのフォーマット」で一貫しているといる事実に大きな説得力を与えていますね。

伊藤:ありがとうございます。季節感なく普遍的に聴けるアルバムになっているとも思います。

確かに夏っぽいキラキラした感じよりも、生々しさが増したと思いました。特に歌詞ですが、どの歌詞の主人公もひとりぼっちなんですよ。他者を思ったり慈しんだりしているのに、みんなひとりぼっち。
2曲目の「コンティニュー」もそうですよね。

伊藤:そうですね、歌詞の根本的なところに関してはずっと変わっていなくて、ひとりぼっちなことをずっと歌ってます。こういうと凄く暗い奴みたいですけど笑
「君」と「僕」が出てくる詞になるべくしたくないという気持ちがありました。
これまでも「君」と「僕」が両方出てくる歌詞はありましたが、あくまでも個人の視点であって、ましてや恋愛の曲は1曲もないんです。「i cherish i」の歌い出しも、そう言った歌詞へのアンチテーゼです。
「コンティニュー」も歌詞だけ読むと失恋の歌という感じですが、あくまで「失敗」するということと「それでももう一回やり直してみる」ということがテーマであって、これもまたひとりぼっちの歌ですね。昔からよく「THE FULL TEENZは夏っぽくて爽やかだね」と言っていただけるのですが、実際歌詞は全然爽やかじゃなくて、あんまりうだつの上がらない個人の一人称視点でしかないんですよ。

歌詞の一人称は伊藤くん自身なのでしょうか?それとも曲毎に主人公が別にいる?

伊藤:曲によって様々ですね。主人公やシュチュエーションはフィクションであったりしますが、描いてる気持ちは実際に僕が感じたことなので、そういう意味でいうと僕が色々なパラレルワールドにいるイメージですね笑

サッドな歌詞が多いですよね。

伊藤:多いですね。でも、「ひとりぼっちで寂しい」という事を共感して欲しいわけではなく、「僕はこういうシチュエーションではこんな気持ちになるんですけど、そういう時ないですか?」みたいなラフな感じです。
稀に共感してくれる人が居てくれたらそれはそれで嬉しいですが、僕にとって歌詞は本当に日記や手帳のようなものです。「タイムマシンダイアリー」の「ダイアリー」はそういうニュアンスなんですよ。

なるほど。歌詞を書くタイミングで聴き手の事はある意味全く意識していないというか。

伊藤:歌詞において、聴いてくださる方のことは本当に全く意識してないです!マジで僕の日記を公衆の面前に公開してる感覚です笑

ちなみに、「コンティニュー」のシングル盤はまさかの台風クラブとの実質スプリットで驚きました。アルバムに先行してリリースされたシングル3部作はカップリングも凝っていましたね。

伊藤:シングル3部作のカップリングは、今までCDに収録したことのない曲を収録しようと決めていました。
「You」にはBEAT CRUSADERSの「FIRESTARTER」のカバーを入れました。日高さんにも許可をいただいてます。
「Slumber Party」にはNOT WONKとのスプリット7インチにしか入ってなかったNOT WONK「Give Me Blow」カバーと、KONCOSやimaiさん、aapsたちと一緒に作ったコンピにしか入ってなかったKONCOS「Baby」カバーを、どちらも初めてCDに収録しました。
で、「コンティニュー」を出すと決めた時にカップリングを悩んでいたんです。
ひと昔前のロックバンドの7インチって、他のミュージシャンによる表題曲のリミックスがB面に入ってたり、むしろリミックスだけで両面のやつとかもあったじゃないですか。
それを考えた時に、僕らのシングルなんだけどカップリングを僕らがやってないのも面白いんじゃないかと思って。人力リミックスというか、誰かに僕らの曲をカバーしてもらったものをカップリングにすると。
そのタイミングで「コンティニュー」のMVを台風クラブのベースの山さんに撮ってもらうことになって。これはもう台風クラブに僕らのカバーをしてもらおうと笑

カバー曲はすんなり決まったんですか?

伊藤:台風クラブ側に何曲か候補曲を送ったところ、初めて台風クラブとTHE FULL TEENZが対バンした時に僕らが演奏した「魔法はとけた」が一番印象深いって石塚さんが言ってくれて、この曲をカバーしてくれることになりました。

なるほどです。まさかのリミックスの発想からカバーに至るとは、おもしろい流れです。 THE FULL TEENZ「魔法はとけた(台風クラブ REMIX)」ってことですよね。台風クラブも大好きなので1粒で2度美味しい感ありました。
3曲目「トープのボストン」はイントロからTHE FULL TEENZ史上最もヘビーなリフが入るので驚きました。

伊藤:「トープのボストン」のイントロは本当に気に入っています。
ああいうヘビーで暗いイントロから始まって、その後展開が開けていくような曲をずっとやってみたかったんです。これも色んな思い込みを脱ぎ捨てた今だからこそようやく胸を張ってできた曲です。
高校生の頃、メロコアだけじゃなくスラッシュメタルもめちゃくちゃ聴いてたので、リフ至上主義なところが僕の中にありまして。この曲はその僕が顕著に出ました笑

そうそう、イントロをヘビーに決めて、その後軽やかに疾走する感じがめちゃ気持ちいいです。どんなにヘビーなリフを挟んでも、伊藤くんの歌とメロディーで清涼感は担保されますしね。
この歌の詞も、THE FULL TEENZのスタンスを暗示してますよね。誰よりも僕は僕でいつまでもつまずいていたい。

伊藤:そうですね、「i cherish i」と「トープのボストン」は、以前だったら恥ずかしくてこんなに赤裸々な歌詞書けなかっただろうなと思います。

「ハローとグッバイのマーチ」というモラトリアムの終わりを告げるアルバムを作り、次作では先人への憧れから脱却、自分たちの衝動に素直かつオリジナルな音楽を追求するという流れは非常に筋が通っています。伊藤くんのビジョンは菅沼くんやチカさんとも共有できているのでしょうか?

伊藤:曲を作る工程においてメンバーに意図を伝えたりすることはあんまりないです。最初から最後まで展開とコード進行を僕が作って、メンバーにそれを伝えて、ベースラインであったり、ドラムのフレーズとかを調整していくという流れです。オケがほぼ定まったところでメロディーを一番最後に作ります。これは結構意外と言われます。

メロディーありきで作曲しているのかと思っていました。

伊藤:メロディーが1番大切だからこそ、メロディーを深く練りたいので1番最後にしています。

4曲目「雲ひとつない」はBPMを落としたミディアムテンポのメロウチューンで。「安定な不安定」というキラーフレーズもありつつ、やはりメロディが光りまくってる曲ですね。

伊藤:「雲ひとつない」はアルバムの中でも特に気に入っている曲です。
アコースティックギターをメインで弾いていて、ラストのサビでエレキに持ち替えるというスタイルはASPARAGUSの忍さんイズムを自分なりに踏襲したつもりです。

歌詞についてはいかがですか。

伊藤:「雲ひとつない」というタイトルを見ると、普通は爽やかな青空を想像すると思うんです。でも、この曲で歌っているのは、「雲ひとつない青空の下なのに、僕はなんてパッとしないんだろう、なんでこんなに心許ないんだろう、むしろこの青空が辛い」というこれまた暗い気持ちを歌っています笑

そうそう、「雲ひとつない」はタイトルのイメージと歌詞の世界観が真逆なんですよね笑

伊藤:CLOUDがNOTHINGということで笑

ああ、そういうことか!笑
THE FULL TEENZってエモーショナルなんですけど「エモ」には寄らないんですよね。湿っぽさみたいなものがなくて、どの曲も清涼感と喉越しの良さがある。聴いた後に残る感情がネガティブなものじゃないんです。

伊藤:ありがとうございます。
僕自身、陰鬱な音楽があんまり好きじゃなくて。自分の歌詞はちょっと暗いかもしれないけど、僕自身が暗いわけではないというか笑
例えばどんなに明るい人だって孤独を感じることはあるだろうし、逆に暗い人が希望に満ち溢れた曲を作ることだってあるだろうし。僕の歌詞はちょっと寂しいかも知れないけど、別に寂しい生活を四六時中過ごしてるわけではないというか 笑

むしろかなり充実した学生時代を送っていたり、他者とのコミュニケーションも円滑ですよね。

伊藤:たしかになんでこんな寂しい歌詞ばっかなんだろうって自分でも思います笑
たぶんどこかで満足してないというか、自分にない物を持ってる人のことを羨ましく思ったりする気持ちは常にあるんだと思います。

5曲目は「Slumber Party」。シングル3部作の2番目ですね。

伊藤:「Slumber Party」は、ファーストをリリースした直後にできた曲です。
今までも2ビートの曲はあったのですが、疾走感一辺倒になるのではなく、展開を持たせることを意識して作りました。セカンドの中で一番最初に出来た曲なので、ファースト以降のTHE FULL TEENZのモードを示すことができた曲だと思います。
イントロはキラキラしたシマーリバーブのフレーズを両サイドからアコギだけで挟み込んでいて、その後2ビートになるところでエレキギターに切り替わるんです。ちょびっとLiteratureを意識しました。所謂USインディー的なイントロの後にメロコアっぽいビートになるという、頭が牛で身体が人のミノタウロスみたいな曲ですね。僕ららしい曲が書けました。

こういうがっつりしたメロディックパンクにシマーリバーブを挟むのってあんまり聞かないですよね。「Slumber Party」というタイトルと歌詞の世界が繋がらない気がするのですが、どんな意味が込められてるんですか?

伊藤:「Slumber Party」っていう言葉は、日本でいうパジャマパーティーみたいな意味らしくて。アメリカの女の子たちがパジャマで集って夜更かししたり普段できないような話をするっていうイベントなんです。
この曲の歌詞も、夜にしか会えない(見えない)誰かと夜通し会話をしていて、朝が来たら消えてしまうという内容になってます。あんまり詳細に解説するのは野暮ですが、ジャケットがキーになっているんですよ。

言われてみれば顔の見えない友達と秘密の話をしているように見えるイラストですね。ジャケットにもきちんと楽曲を補完する意味付けをしているのですね。

伊藤:日向山葵さんに描いてもらったシングル3部作のジャケットは、全てそれぞれの歌詞の内容に沿っています。詳しくは説明しませんが、色々想像していただければなと。

6曲目は「Puppy Love」。まさかの 「魔法はとけた」収録曲、「Yellow Knife」のリメイクですよね。アレンジを大幅に変え、サイダーもシャンパンに変わるなど詞の主人公も確実に大人になってるなと笑 こちらを収録するに至った経緯を教えてください。

伊藤:サイダーがシャンパンになっているところ、気付いていただけて嬉しいです笑
「Yellow Knife」をレコーディングした頃はまだベースが菅沼じゃなくて。菅沼が入ってからは1度もやった事が無かった曲だったんですけど、僕もチカも好きな曲だったので、もう1度きちんとアレンジし直してレコーディングしようと思ったんです。
展開も減らすところを減らしつつ増やすところは増やしてメリハリをつけました。ベースラインも今の気分にガンガン変えて、納得いく形に仕上げました。我ながら気に入っています。

アルバムの流れにもしっかりはまって、凄く良いアクセントになってると思いました。タイトルも初恋という意味に変わっていて、解釈の幅が広がったなーと。
7曲目「きっといつまでも」は本作の中でもライトメロウ感が強めです。詞の世界観もアルバム中最も純朴なんですよね。珍しく幸せな時間や感情を歌っている。伊藤くんらしくないといえばらしくない笑

伊藤:「きっといつまでも」は、バレーボウイズのボーカルであるネギくんがソロでやっていた曲をカバーさせてもらいました。といってもかなりアレンジしてあんまり原型ないかも知れないです笑

それで歌詞の世界観も異なるわけですね。なぜカバーしようと?
伊藤:ネギくんの弾き語りライブを見に行った時にこの曲をやっていて、歌詞が本当にいいなと思いまして笑 その場で「THE FULL TEENZでやらせて下さい!」と直談判しました 笑
普段の僕の歌詞と違って、本当にピュアで純朴な歌詞だなと思います 笑 原曲がロマンティックな雰囲気だったので、よりロマンティックになるようバンドアレンジしました。

その場でカバーを直談判って相当な事ですよね笑 カバーだと気付かないくらいマジで凄くTHE FULL TEENZにハマってると思います。

伊藤:NOT WONK、KONCOS、BEAT CRUSADERSの時もそうですが、僕らがカバーする際は絶対に原曲から大胆なアレンジをして僕らのものにしてしまいたいと思ってやらせてもらってます。
なので、カバーだと気付かないと言ってもらえて嬉しいです。

「きっといつまでも」を聴いて感じたんですけど、伊藤くんってシンプルに歌の地力がありますよね。ファーストから大きく成長した点だと思います。
歌に対しての気持ちの変化や技術の成長を感じますか?

伊藤:歌はファーストからセカンドにかけてかなり変わったと思います。
そもそも僕はボーカルをやりたくてバンドを組んだわけじゃないんです。THE FULL TEENZを組んだ15歳の頃、たまたまメンバーの中で楽器を弾きながら歌えるのが僕しかいなかったので、僕が暫定的にボーカルになっただけで笑 気付いたら12年経ってしまいました笑
なので、最初の頃は歌に向き合ったことがほとんどなかったんですけど、ファーストを出した辺りからこのままじゃダメだと思って色々考えたり、知り合いのバンドの人にトレーニングしてもらったり、ようやく歌うことに対しての意識が芽生えてきたんです。歌は本当にずっと上手くなりたいと思ってます。他のバンドのライブとか観ててよくヘコみます笑

その流れでいうと、8曲目「まばたき」はドラムのチカさんの歌唱曲です。

伊藤:「まばたき」は、作ってる段階からチカに歌ってもらおうと思っていました。同じバンド内なんですけど、楽曲提供してる感覚なんです。ASPARAGUSの忍さんが木村カエラさんに楽曲提供しているのが本当にカッコいいなと思っていて。
本当はもっとチカに歌って欲しいんですけど、やっぱりペース的にはアルバムに1曲くらいの割合になっちゃいますね。
チカは元々MOTELというガレージロックバンドのボーカルをしていて、ミッシェルガンエレファントのチバさんみたいなしゃがれた感じで歌ってたんです。
で、THE FULL TEENZではドラムをやってもらうことになったんですけど、歌に関してはどういう風にフィットさせればいいかとても悩んでいたみたいで。あーでもないこーでもないと歌い方を模索してて、今でもチカの歌は変わり続けてます。でも、単純にドラムを叩きながらあれだけ歌えるのはめちゃくちゃ凄いと思います。

次は、久しぶりの音源としてシングルリリースもされた「You」について。
ファーストが夏なら秋になったような、半袖だった青年の髪が伸びて服も上着を着込んでいるようなイメージで。
ハローとグッバイの先でも青年はまだ悩んでるし、なんならそれが加速してるなと。未来へのまばゆい希望を感じさせた「ビートハプニング」の次が「You」だったからビックリしましたよ。サウンドNAVELを想起させるようなサッドメロディック、ボトムはグッと太くなっています。「You」を最初のリードシングルに選んだ理由等も知りたいです。

伊藤:「You」はTHE FULL TEENZ歴代の曲のなかでも作曲に1番時間を要した曲です。
仰るとおり、「ビートハプニング」でもうモラトリアム的なことは卒業したと思っていたんですけど、その後はその後でまだまだ悩みが生活の中にはたくさんあって、なにを歌えばいいのか凄く考えた時期があったんです。
1度立ち返ろうと思って、自分を見つめ直した歌詞を書いたんです。その歌詞に、あえて真逆の「You」という2人称のタイトルを付けました。他者ではなく自分自身に語りかけてるイメージですね。
すると、自ずと作曲やアレンジへのハードルが上がってしまって、曲の展開やメロディーを何度も何度も練り直すことになりました。結果的に構想から完成までかなり時間がかかってしまったんです。
それだけ難産だったからこそ、納得のいく曲になったし、これを1枚目のシングルにしようと思って選びました。

なるほど、「You」は「誰か」じゃなく「自分自身」なんですね。確かに歌詞の世界観には深い内省の跡がみれる。出だしのAメロからメロディも素晴らしいですね。間違いなくTHE FULL TEENZの新たな代表曲だと思います。MVの印象も強いです。
ちなみ三枚連続リリースという発想はどこからきたんですか?

伊藤:そもそも今作は2018年の夏と2019年の夏の2度に分けて録ったんですよ。
当初は2018年夏の分だけでリリースしてしまおうと思っていて、ミニアルバムのサイズになる予定でした。ただ、そうなると次のフルアルバムが出せるまで、何年かかるか分からなかったし、もう少し新曲のストックができてからそれらも録音して、フルアルバムとして出そうと。
ただ、2018年夏に録音した新曲を早く聴いてもらいたかったので、3枚連続でシングルを出してしまおうと。これはHomecomings福富さんのアイディアです。
本作は結果的に1年がかりで製作する形になったので、ファーストアルバムから4年ものブランクを空ける形になったんです。

時期をあけて製作されていますが、アルバムを通した統一感は抜群だと思います。
「Cadeau」はアルバムを締めくくる1曲であり、随一のショートチューンです。この曲をラストにもってきた意図を教えてください。

伊藤:「Cadeau」は下北沢THREEでオールナイトイベントをした後、そのまま江ノ島にほぼ直行した日のことを歌ってます。
真夏の江ノ島のコンクリートから登る陽炎や、海面のキラキラは余りにも儚くて、夢の中に居るような気さえしました。
夏はすぐ駆け抜けて終わっちゃうので、「Cadeau」もこの尺がベストだと思いました。
本当は「You」で終わるのが作品のテーマとしては1番綺麗だったのかも知れませんが、どうしても最後に駆け抜けて終わりたかったというか笑
昔の僕らが作っていたようなショートチューンを今の僕らの感覚で刷新した姿を見せたくて。過去と未来を行き来するようなイメージです。

それは「タイムマシンダイアリー」というアルバムタイトルにもリンクしている?

伊藤:仰る通りです。「タイムマシン」は未来と過去を行き来できますが、「ダイアリー」は日々の積み重ねで、1方向にしか進んで行かないものですよね。矛盾する2つのものを1つに組み合わせてみました。僕らの未来と過去を日常が繋いでいる。そんなイメージです。

「タイムマシン」と「ダイアリー」、それぞれはありきたりの単語かもしれませんが、組み合わせる事で新しい意味合いが生まれてくる。素晴らしいタイトルだと思います。
ちなみに「Cadeau」って何ですか?笑

伊藤:「Cadau(カドー)」は、新代田にあるパン屋さんです。
下北沢THREEでのオールナイトイベントが終わった後、みんなでCadeauでモーニングを食べてから江ノ島に向かったんです。
なので、「目覚めたらCadeauで会いましょう」という歌詞は、「一旦仮眠して数時間後にカドー集合ね」 っていう実際にあった出来事です笑

まさにダイアリーです笑
駆け足でアルバム全曲を振り返りましたが、あらためて「タイムマシンダイアリー」を作ってみて率直にいかがでしたか?
どのような手触りの作品で、THE FULL TEENZ史においてどのような意味合いを持つ作品になりそうですか?

伊藤:「ハローとグッバイのマーチ」から4年という歳月が僕らの視野を広げて、音楽的にも色んなしがらみが取れました。
結果として今までTHE FULL TEENZを聴いたことなかった人にも気にしてもらえるアルバムになったと思います。
個人で言うと、将来僕自身がこのアルバムを聴いた時に、いつでも2020年に戻れるようなツールであったらいいなと思ってます。



(information)THE FULL TEENZ

伊藤祐樹(Vo, Gt)、菅沼祐太(Ba, Vo)、佐生千夏(Dr, Vo)の3人組。

2008年中学生だった伊藤を中心に結成、2014年現在の3人編成に。京都を中心にスタジオライブから「ボロフェスタ」、「FUJI ROCK FESTIVAL」等の大型フェスまで縦横無尽に活動中。メンバーを中心にインディペンデントレーベル"生き埋めレコーズ"も運営。2014年1st ep「魔法はとけた」(CD・生き埋めレコーズ)、2nd ep「swim! swim! ep」(TAPE・I HATE SMOKE TAPES)、2015年NOT WONKとのスプリット(7"・SECOND ROYAL RECORDS)をリリース。2016年5月1stフルアルバム『ハローとグッバイのマーチ』をリリース。ミックスは安孫子真哉(KiliKiliVilla)が手がけた。

2018年末より「You」「Slumber Party」「コンティニュー」の3タイトルのシングルを一部店舗限定で連続CDリリース。
2020年2月、約4年ぶりとなる待望の2ndフルアルバム『タイムマシンダイアリー』をリリースする。