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レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

Still Dreams インタビュー

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みんな夢から覚めてしまった。あんなに夢中だったくせに。
ドリームポップが一般的な認知を獲得したのは1980年代のこと。Cocteau Twinsがそのパイオニアとして定着しているが、思えばVelvet UndergroundSyd Barrettの時代から連綿と続くムードであったように思う。
美しいメロディと酩酊を誘う幽玄な音世界は時を経る毎に緩やかに、時に大胆に変貌を遂げ、2000年代後半におけるCaptured Tracksの躍進でもってひとつの到達点を作り出した。
Juvenile Juvenile/Wallflowerは日本におけるドリームポップのブライテスト・ホープであり、ひとつの完成形であったように思う。各々が素晴らしいアルバムを1枚ずつ残し、やがてバンドは深いリヴァーブの向こう側に消えた。
しかし、バンドのメンバーであったRyutaとMaayaは夢から覚めなかった。
2人がドリームポップの先に見つけた新たなドリームとポップ、それはシンセサイズされた鍵盤と共に聴こえてくる。夢の名はStill Dreams、2016年に結成された。音源がBandcampにて公開されるや否や瞬く間に評判を呼び、海外の音楽ブログやバンドがフックアップ。ただのリバイバルでは全然ない、煌めきと驚きに満ちたシンセサイザーの主旋律と至極のメロディ。ここではないどこか、瞬間と永遠、宇宙の果てに佇む本棚の裏側。みんな夢から覚めてしまった、でも彼らは新しい夢を見ているんだ。

ということでお待たせしました。Elefant RecordsからニューEp「Make Believe」をリリースしたStill DreamsのRyuta氏インタビューです!
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Still DreamsはJuvenile JuvenileのメンバーであるRyutaさんとMaayaさんが2016年にスタートされたユニットです。
Still Dreams立ち上げ時の青写真について教えてください。

Ryuta:Juvenile Juvenileはメンバーの大半が大学生の時に始めたバンドでした。
やがてメンバー各々が社会人になり、仕事などの都合により練習や曲作りをする時間が制限され、活動ペースはかなり控えめになっていました。
そんな中、僕とMaayaは2016年に結婚して一緒に住むようになったので、自宅内でバンドの意思決定と曲制作を完結できる音楽活動をスタートさせました。それがStill Dreamsです。
MaayaはJuvenile Juvenileではドラムを担当していましたが、Still Dreamsではボーカルを担当しています。80'sポップスにおける、自分の好きな要素をフィーチャーしたような曲を作りたいと考えています。

おふたりがJuvenile Juvenileとしてのバックグラウンドを持っていること、とても重要であると考えます。
Still Dreamsはシンセポップと呼ばれる音楽にカテゴライズされるかと思いますが、ボーカルの処理や各パートのエフェクト等作曲における要所要所に、[ドリームポップ以降]の感覚を感じるんですよね。そこが他のシンセポップと呼ばれるバンドとの大きな違いであり、単なる80'sのリバイバルになっていない一因かなと。

Ryuta:僕が音楽を始めたころから聴いているドリームポップ・チルウェイブなどの逃避的な音像は、自分の根幹になっています。その点ではStill DreamsとJuvenile Junvenileは地続きかもしれません。
ソングライティング面でも、Still Dreamsの曲はライブでの再現を想定せず音作りをしていますが、まずギターで曲の骨組みを描くところは共通していますね。

シンセポップの持つある種の華やかさ煌びやかさに加え、逃避的なニュアンスも多分に含んでいますよね。Still Dreamsを始める上で、モデルにしたバンドはありますか?

Ryuta:イメージしていたモデルは特にないのですが、Summer CampやTennis、Peaking Lightsといった夫婦デュオはビジュアルのバランスなどで参考にすることがあります。
特にPeaking Lightsですが、僕達とは方向の違う逃避的な音楽を長年作り続けていて、遂には2人で解脱しそうな勢いがあるので憧れます。
音楽面では、生楽器と電子楽器の融合のさせ方やシンセやドラムの音色で思い切りNew Orderを参照した曲を定期的に作りたくなります。
ボーカルラインはKero Kero Bonitoのポップセンス、同じElefant Records所属のThe Perfect Kissのピュアなニュアンスを取り入れられたらと思っています

音源製作を活動のメインにしているのも、結成当初からのアイディアなのでしょうか?
Ryuta:そうですね、メンバーも2人なので基本的に家で音源を作り続けるという活動がメインです。
音楽的にも、肉体性が強いものではないので、家や移動中に聴いてもらうことを想定して作っています。
ライブでどう表現するかを考えていないので、作曲における制約は少ないんですよ。今のところ曲はスムーズに作り続けられている状態です。

ありがとうございます。作曲のプロセスについても教えてください。勝手なイメージですが、Ryutaさんが曲のほぼ全てを作り込み、Maayaさんは歌に徹してるイメージです。俗っぽい例えですが、きゃりーぱみゅぱみゅ中田ヤスタカのようなスタイルを想像します。
Ryuta:仰る通り、曲は僕が作り込んでMaayaが歌うというスタイルです。
基本的には僕がトラックを作って仮ボーカルを入れたものをMaayaに渡し、後日Maayaのボーカルを録音するという流れです。
ただ僕にプロデューサーという意識はなく、Maayaのファン目線なんですよ。Maayaに歌ってほしいメロディと歌詞を頑張って作っているという感じですね

作詞もRyutaさんが手掛けているとの事ですが、やはり英詞への拘りがあるのでしょうか?
Ryuta:英語に拘りがあるという訳ではないのですが、2人とも関西人で歌詞に適した日本語を使うのに慣れていないという事と、日本語の曲を聴かなくなるにつれ、歌詞の作り方も音へのはめ方も分からなくなってしまったんです。
それでも前に1度だけ日本語の歌詞を書いた事があるんですが、友達に「校歌っぽい」と言われたので、もうきっぱり諦めました!

少し話が戻りますが、今まで3枚の作品が出ています。それぞれCD、カセット 、12インチ アナログと別々のフォーマットです。これは意図されているのでしょうか?
Ryuta:あえて別々のフォーマットにした訳ではないです。ただ、中身やジャケットに合うフォーマットでリリースしたいとは常々考えています。
1st「Theories」は自主配信でリリースした後、Flake RecordsのDawaさんにCDでのリリースの話を提案してもらって実現しました。
2nd「Lesson Learned」は収録曲が全て完成した時点で、Miles Apart Recordsの村上さんにカセットテープでのリリースをお願いしました。
そして今回のアルバム「Make Believe」は当初10インチでのリリース予定だったんですが、10インチの収録分数を大幅に上回ってしまったので、結果的に12インチでのリリースということになりました。

やはりフィジカルでリリースするという事に拘りがあるのでしょうか?
Ryuta:ありますね。サブスクなどのデジタルフォーマットは新しいものを聴いていくには良いツールですが、新しいものがどんどん更新されて、好きだったのに思い出すこともなくなってしまう作品も出てきてしまいます。
フィジカルは実際に自分の家に置けて、棚を見ると定期的にその作品のことを思い出せるという安心感があるので、大切な作品は手元に持っておきたいと思っています。自分たちの作品も時間が経ってからも時々思い出してほしいので、出来るだけフィジカルでもリリースしたいです。

サブスクによる過剰な供給によってある種のインフレが起き、消費のサイクルが早まっているようには感じます。もちろんサブスクはサブスクで便利に違いないのですが、Still Dreamsには是非これからもフィジカルのリリースを求めたいと勝手ながら思っております。
アートワークへの拘りも感じますが、どのようにディレクションされているのでしょうか?

Ryuta:アートワークに関しては、普段からコラージュアートやイラストを見るのが好きで、instagramのタグから色々なアーティストの作品をチェックしているんです。その中でStill Dreamsのイメージに合うものがあれば、コンタクトを取って使用許諾をもらうという形でやっていました。
前2作はそういう方法でしたが、新譜のアートワークは異なります。KNN.5さんというアーティストにいくつかのイメージを伝え、アートワークを新たに書き下ろしていただきました。

今回のアートワークは前2作とテイストが違って印象的です。タイトルのフォントに至るまでこだわりを感じました。
そして、実は個人的に1番の興味事でもあるのですが、Elefant Recordsからのリリースに至った経緯も詳しく教えてほしいです。
Elefant Recordsはインディーポップリスナーにとってかなり重要なレーベルだと思うんですよ。僕もずっとファンで、年に何枚もレーベルのレコードを買っています。

Ryuta:リリースが決定したのは2020年の6月ですね。
随分前の話なんですが、僕たちの曲のミックス・マスタリングをしてくれているPictured ResortのKojiがThe Perfect Kissのことを教えてくれて、Still DreamsとElefant Recordsの親和性を指摘してくれていたんです。
それを覚えていたので、元々EPとして自主リリース予定だった6曲が完成した時点で、Elefant Recordsに音源を送りました。
Elefant Recordsのデモサブミットのページは「写真とかバイオグラフィーは送らなくていい。大事なのは音楽なので曲だけ送ってくれ」みたいなステイトメントが書いてあってかっこよかったです。
ただ、返信が来るとも考えていなかったので、自主でリリースする準備も平行して進めていました。
しばらくして、Elefant Recordsからメールが入り、正式なリリースのオファーがありました。あわてて自主リリース予定を取り消しましたね。
レーベル側は「とりあえず8曲入りのミニアルバムをLPでリリースしたい」と言ってくれたので、本編の8曲+デジタルシングルのカップリング4曲の合計12曲に向けて、すぐに追加の曲を作り始めました。

Elefant Recordsには様々なタイプのバンドがいますけど、ブレずに根底にあるのは「良い曲を書く」という点だと思っているので、今回のリリースに伴うエピソードにはグッときます。従前からElefant Recordsのレコードは聴かれていたのでしょうか?

Ryuta:僕は熱心にElefant Recordsを追っている訳ではなかったんですが、好きになったバンドを調べてみると、結果的にElefant Recordsからリリースされていることが多かったです。
レーベルの中で好きなバンドはCamera ObscuraやThe School、Iko Cherieなど多数いるのですが、特に好きな作品はAlpaca Sportsの"When You Need Me The Most"です。
彼らが来日した時は僕が参加していたWallflowerで彼らのバックバンドをさせてもらったこともあり、思い出深い1枚です。
あとはElefant Recordsと関わるようになって知ったAxolotes Mexiacanosの"Salu2"はかなり衝撃でした。
色んなスタイルの曲をやりつつ、真ん中に1本ポップなボーカルがズドーンと入っていることで統一感もあり、久しぶりにくらったという感じです。

挙げていただいたバンドはどれも本当に素晴らしいですよね。そこにYeaningも加えたいです。Joe Mooreは本当に素晴らしいソングライターだと思います。
あとは2019年に出たtennis club、2020年に出たAiko El Grupoはオススメなんで未聴であれば是非。
Elefant Recordsはフィジカルへの取り組みも素晴らしいレーベルなので、Still Dreamsとのシナジーは大きいと考えます。

Ryuta:今回のレコードも手触りや発色が本当に良くて、Elefant Recordsのフィジカルへの熱量を強く感じました。

Elefant Recordsのバンドについてお話いただきましたが、日本のバンドでシンパシーを感じるバンドはいますか?
Ryuta:日本のバンドでシンパシーを感じるのはPictured Resortです。Pictured Resortは僕たちのエンジニアもやってくれているKojiのプロジェクトです。
僕らがStill Dreamsと名付けて、夢の中に見出している一種の逃避先と、KojiがPictured Resortと名付けた心象風景上のリゾートに見出しているものには共通した部分があると思います。
18歳の時に大学で知り合ってから長い付き合いであり、今も近所に住んでいてよく話すので、歌詞のテーマに共感できるというのもあります。

RyutaさんとKojiさんが見出だしている心象風景にあるというユートピア、興味深いです。
俗世からの逃避的なニュアンスは確かに歌詞の一端からも感じることができますし、サウンドもそれを後押しするようにドリーミーなニュアンスですよね。例えば社会や政治、実生活における様々な問題が、作詞やソングライティングに影響を与えることはありますか?

Ryuta:何か個人的や社会的な問題が起こったら、曲を作りたくなることはありますが、それは問題に対処しようという気持ちでは全然なくて、その問題を考えないように全然関係のないテーマで曲を作って、頭の中を埋めてしまいたいと動機なんです。直接的に現実の出来事とリンクした曲を作るということはほとんどないですね。
Ryutaさんにとって音楽を聴いたり作ったりする一連そのものに逃避的な意義を見出だしている節があるということですね。それって凄くチルウェイブ的だなーと感じます。

Ryuta:たしかに音楽自体が逃避になっているんだと思います。日常のオンとオフも自分の好きな音楽がかけられる場かどうかが大きいですよね。
映画や文学など、音楽以外の分野から影響を受けることはありますか?
Ryuta:本で言うと、ポール・オースターの小説はすごく好きです。彼の作品に「物語の中で生きる幸運、架空の世界で生きる幸運に恵まれた人にとって、この世界の苦しみは消滅します。物語が続く限り、現実はもはや存在しないんです。」というラインが出てくるのですが、この感覚に創作上の影響を受けています。自分の作品も他の人にそこまで思わせるような作品にしたいと思って大事にしています。
あとはゲームが好きですね。
特にドットやポリゴンのインディーゲームをよくプレイしていて、SF感や80's感に影響を受けて歌詞の世界観の下敷きにすることがあります。

文学やゲームについて明るくないのですが、僕もポール・オースターの作品に触れてみようと思います。最後に、今後のStill Dreamsのビジョンについても教えてください。

Ryuta:多分自分たちの核みたいなものはずっと変わらないので、それをブラッシュアップし続けていきたいです。
どういう形になるかまだ分かりませんが次回作も出来てきているので、早めに届けられるよう準備していきます。
もう少し大局的な話で言うと、Still Dreamsとして2人が活動できる時間をもっと長くしていきたいという目標があります。どうしても時間的な制約で活動が限られてしまうので、少しずつでも長くしたいと思います。
今はコロナでそれどころではありませんが、将来的にはライブも沢山やっていきたいです。
音源製作主体と言ったものの、やっぱりバンドで曲を演奏するのはやっぱりとても楽しいです。今はMariana in our HeadsやJuvenile Juvenileのメンバーがサポートしてくれているので、コロナがある程度収まった後に向けたバンドセットでの曲を詰めているところです。
リスナーとしてもライブを見に行くのが好きなので、本当に早く元通りになって欲しいなと思います。

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