Anorak citylights

レコードを買ってから開けるまでのドキドキとか、自転車のペダルを加速させる歌や夏の夜中のコンビニで流れる有線など些細な日常とくっついて離れない音楽についての駄文集 twitter ID→ takucity4

GOMES THE HITMAN山田稔明インタビュー

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2019年12月25日、実に14年ぶりとなるニューアルバム「memori」をリリースしたGOMES THE HITMAN
今回はバンドのソングライターである山田稔明のインタビューを公開します。
Anorak citylightsでは、開設当初からGOMES THE HITMAN及び山田氏へのラブレターを送り続けていました。
一方通行進入不可な愛情と親以上の感謝、勝手極まりない自己解釈と少しの自意識、僕はゴメスの歌の主人公になりたい‥。思い入れを吸いタプタプに太ったそれを朝方のポストに放り込み、彼方からの返事を待ち続ける日々。真夜中のテンションで書かれたそれは最早誰の目につくことなく、インターネットの大海で沈殿しておけば良かったのかもしれません。
ところがある日、遂に記事が山田氏本人の目にとまり、直接お返事をいただく事態に。すっかり''ゴメス過激派''と化していた私の心臓は止まり、そのまま帰らぬ人となりました。今は空の上からこの記事を書いています。
冗談はさておき、今回は「memori」をリリースして1か月後の山田氏にお話を伺う事ができました。彼の2016年作ソロアルバム「pale/みずいろの時代」リリース時にも少しですがインタビュー記事を書かせていただいたため、一応今回が2本目の記事となります。
雨の降りしきる吉祥寺に颯爽と現れた山田氏と喫茶店でお話すること2時間、公開できるのはほんの一部になってしまいますが、音楽家としての矜持や政治の話等、他では読む事のできない内容になっています。ご期待ください。
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山田:「memori」、どうだった?

まず何より、現行感が非常に強いアルバムだと感じました。復活バンドの復活作って過去の自分たちを水で薄めたようなアルバムを作ってしまうパターンがあるんですけど「memori」はそれが全くない。欧米の若いインディーバンドと同等、それ以上のフレッシュさがあります。やはり山田さん自身が現行のヘビーリスナーである事が大きいのかなと。

山田:それはあると思う。昔はね、自分の聴いてる音楽とプレイする音楽に解離があったの。ゴメスでやるべき音楽を自ら線引きしていた節があって。イメージとしてのポスト渋谷系を意識してたんだよね。そこから脱却できたのが「mono」で、最終地点が「ripple」だった。

そもそも山田さんにとって渋谷系の当時はどれほど強烈だったのでしょうか。

山田:渋谷系以前はね、自分の好きな音楽と売れる音楽は全然一致しなかったんだよね。でも渋谷系がリアルタイムでチャートインする時代がきて、僕と同じようにマニアックな音楽を好きな人が数字的にもきちんと結果を出すようになった。カジヒデキさんとか、ピチカートファイブとか。やっぱり僕も音楽でちゃんと結果を出したいと思っていたし、そういう意味でも自分は渋谷系の系譜でありたいなと。当時はそんな感じだったね。

広く大衆に受け入れられたい気持ちは山田さんにもあった?
山田:あったし、どこかの人気あるシーンにも入れて欲しかった気持ちはあったかもしれない。でも、どこにも入れずここまで来てしまった。ゴメスみたいなバンドは他にいないって自信はあったんだけどね。下北系とか喫茶ロック界隈を見ていて、羨ましい気持ちになった事もあったし。

特定のシーンにカテゴライズされなかったからこそ、ゴメスは無闇に消費されずこれた側面もあると思うんです。

山田:売上枚数もそんなに多くなかったし、ブックオフでもあまり見かけないし。当時は不遇な気持ちでいたけど、間違ってなかったなって思う。

話が脱線してしまいましたが、山田さんが現行のリスナーであることがまずポイントだなと。

山田:やめられないんだよね。 10枚レコード買っても良いやつなんて2枚くらいしかないんだけど。 ご飯食べに行ったら帰りにレコード屋さんに行っちゃうし、最早ライフワーク。今は音楽を仕事だと思ってないし、僕が詞を書いて歌えばゴメスの根幹は出来上がるから、サウンドは自由に制約なく作れてるのね。意識的にも無意識的にも自分が普段聴いてる音楽の影響は入ってきちゃうし、新しいアイディアのソースはやっぱり新しい音楽がもたらしてくれる事が多いな。
例えば「memori」はネオアコギターポップというテーマがあったけど、それは必ずしも80年代90年代のものだけではなくて。Jay somやReal estateやNo vacationはそういう過去のギターポップを新鮮な解釈で今鳴らしてるわけだから、「memori」を作る上で意識するところはありました。

「memori」の楽曲はspotify等のサブスクでもフレッシュなプレイリストに加わる事が多くて、それが本作の放つ現行感を証明しています。

山田:そう言っていただける事は本当に嬉しいです。

バンドの活動停止中もソロで活動を続けた事、つまりソングライティングの新陳代謝が活発だった事が、この現行感の裏付けだと思うんです。

山田:そうだね、ソロは続けてきて本当に良かったと思う。バンドが止まって、リリースも無くなって収入も減ってしまって。そうするとライブをやるしかないわけだけど、ライブやるなら新曲があった方がいいと思って。ソロとしての新曲とバンドの曲で良い感じのコントラストも描けるし、自分もワクワクできるしね。
それでソロを7年やってみて手応えを感じつつ、頭の片隅ではやっぱりゴメスの事はずっとあった。
ようやく動かせるタイミングになれたのが2014年。僕がソロで全国を廻っていた影響が良い感じに作用して、ゴメスも以前より色々な場所でライブできるようになった。新陳代謝という意味では、活動休止前より全然良いね。

ソロ時代にリスナーの入れ替わりも多少ありつつ。

山田:その辺りはどうなんだろうね。熱心に聴いてくれる人の分母はあまり変わってなくて、入れ替わっているのかも。でも「memori」を今回リリースするに当たり、90年代~00年代にゴメスを聴いてくれてた人達からのリアクションは結構あって。なんだろう、やっぱりバンドって特別なんだよ。ソロにはどうしても越えられない、バンドにしか無い魔法みたいなものがあって。

リアムやノエルのソロがどんなに良くてもオアシスを越えられない、みたいな。
山田:そうそう。ソロでどんなに良い音楽を作ってても‥バンドには敵わない面がある。
僕は「新しい青の時代」というアルバムを作れて、ソロとしてやれるとこまでやれた感じがあったの。だから未練なくバンドを再開できた。「ripple」よりも良いアルバムをバンドで作りたいとも思っていたしね。

「新しい青の時代」と「memori」、比べてみていかがですか。
山田:難しいな。「新しい青の時代」は凄く孤独なアルバムという感じがしていて。ソロのバンドで作ったから勿論色々な方の力を借りたんだけど、何だか独りで作った感じが強い。そういう意味でも究極のソロアルバムなんだよね。
「memori」はバンドでワイワイ作って、それこそアレンジもセッションで練り上げたし、「新しい青の時代」とはベクトルが全く違うのよ。

「memori」を作るに辺り、メンバーとの具体的なサウンドイメージの共有はありましたか?
山田:ないかも。僕らって普段音楽の話をしないし、メンバーも僕が今どんな音楽を好きかってことも知らないんじゃないかな。4人全員が好きなバンドとかもたぶんないし、共通言語がないの。だからゴメスはバンドでカバー曲をやらないんだよね。

確かに。凄く面白いバランスです。「memori」はストリングスやホーンも入っておらず、4人バンドのアルバムという感じが強いです。
山田:プロデューサーやアレンジャーを入れるという事は考えなかったな。「ripple」では意図的にバンド感を排した面もあったし、今回は徹底的にバンドを突き詰めたかった。予算もそんなにとれないし、でも中途半端な作品は絶対に作れない。自ずと4人が向き合わざるを得なくなる。バンドが本当に4人だけで動いていた頃に原点回帰したい気持ちもあったし。

「weekend」は4人だけで作った作品では無かったし、本当に原点回帰ですよね。学生時代の貸しスタジオの匂いがする。

山田:キャリアを重ねた今の状態で再デビューするなら、みたいなね。

その瑞々しさも、「memori」の現行感を後押ししています。今回は最初からメジャーレビューでのリリースを想定しているんですか?

山田:僕がソロで10年やってきたやり方で、自主レーベルからインディーで出す予定だったんだよね。なにせ慣れてるし。でも、そうすると全てが想像の範囲内で収まってしまう懸念があった。ゴメスを好きでいてくれる方々には届くだろうけど、そこから先に届けられるだろうかと。そこで、メジャーの力を借りようと思った。
音源の制作は先行して進めていて、以前から配信でお世話になっているUNIVERSALに声をかけたらGOが出た。

僕は最初メジャーから出すことに懐疑的だったんですよ。ゴメスは広告や資本の力で広がったわけではなくて、あくまでクチコミ的な広がり方をしたわけですよね。今は時代的にも、良いものをつくればインディーもメジャーも関係なくお客さんがついてくる。ましてや山田さんはインディーで結果を出しているし、インディーで出した方が取り分も大きくなる。
山田:メジャーにしかないパワーも間違いなくあるんだよね。例えばUNIVERSALには配信専門のチームがいて凄く優秀だし、「memori」がフレッシュなプレイリストに多数加われているのも、間違いなく彼らのパワーがあったからだと思うし。
イメージとしてのメジャーレーベルに対しては確かに色々思うことはある。でもメジャーで働いてる人ひとりひとりと話をして、役割や人柄が見えてくると、こちらの意識も変わってくる。
ましてや今回のリリースに当たってレーベルからのサジェストも無いし、バンドがやりたいようにやらせてくれてる。凄く良い経験ができてる。インディーでやってたような煩わしい事務作業もレーベルがやってくれたし。次のリリースがどこから出るとかは白紙だけど、良い花火が打てたなーと思います。

UNIVERSALからのリリースということもありサブスクでの配信もスムーズでしたが、サブスクについて思うことはありますか?

山田:サブスクってタワレコの試聴機が手元にあるようなものじゃない?僕らは昔から試聴機で聴いてさえくれれば絶対に心を持っていく自信があったから。サブスクはプラスでしかないよ。Twitterを見てても、みんなサブスクで気軽に聴いてくれてる感じがあるし、サブスクでゴメスを初めて聴いてくれた人もいる。先ほど話した僕自身新しい音楽をサブスクから知ることも多いしね。サブスクは間口を無限に広げてくれるというか。

確かに、「memori」は過去最高の間口の広さになりましたね。

山田:なったね。色々な音楽を取捨選択してるようなリスナーにも聴いて欲しいし、ライブに来て欲しい。「memori」はそういうアルバムになったと思う。

「memori」の話からは少し外れますが、山田さんはソングライティングにおいてリスナーをどこまで意識してるんですか?

山田:あまりしてないかも。歌が個人的であればあるほど、多くの人に響くんじゃないかと思ってる。多数の共感を狙うような歌よりも、個人の独白を一定の余白と共に歌う方が、結果的に心を打つと思う。

歌う言葉も、特定の時代に頼らない普遍的なものばかりですよね。
山田:それは意識してる。でも、この間KIRINJIの新譜を聴いたら、今の時代を切り取るような言葉ばかりを歌っていて面白いなと思った。僕は普遍的でもありたいし、かといって手垢のついたものにもなりたくない。最先端の音楽を聴いてる人にもちゃんとアプローチできるようなものを作りたいとも思うし。聴き手を制限せず、誰にでも聴いてもらえるような詞や歌はどうあるべきかってことを最近は凄く意識するようになった。
でも「memori」の歌詞は15年かけて書いてるからね。そうなるとインスタとかTwitterってワードはどうしても出てこないよね。 もちろん僕個人としてはインスタもTwitterも楽しんで使ってはいるんだけど。

山田さんってSNSを凄くドライに使っている印象があって。日々のニュースや時事ネタや政治に対する意見表示もほぼ行わない。山田さん自身は政治や社会に対しての意見は必ず持っていると思うんです。でも、それをあえて発信しない。
山田:うん、政治や社会に対して思うことは勿論大いにある。僕の立場は昔からキープレフトで、少数派の立場にいると思ってる。僕が投票した人が選挙で勝ったこともあまりない。
でも、自分の政治イデオロギーを文字にした時に、自分の意図とは違う解釈や広がり方をする懸念が常にあって、それが嫌なのね。だからライブのMCとか、ちゃんと生で伝えられる場面では結構政治に対することも言ってるよ。

日本は出口のないデフレの迷路の渦中にいて、どんどん生活水準が落ちてきて未来への希望も見えずらくなってきています。そんな時代において、山田さんの歌う「半径5メートルの幸せを慈しむこと」ってある意味凄く政治的だと思うんです。高いクルマを買ったり世界中をクルーズするような事を幸福とするのではなく、あくまで市井の毎日の中でささやかな幸福を見つけていく事の意味というか。

山田:こんなクソみたいな時代で音楽をやっていると、どうしても伏し目がちになる。能天気にはなれないよね。僕が歌う事が結果的に聴いてくれてる方々の生活や心を少しでも豊かなものにできたらいいなとは常に思ってる。
政治のイデオロギーが近い人とだけ仲良くできればいいかと言われたらそうじゃないし、例えば僕の音楽が好きだけど選挙では自民党に投票してるファンを無下にするのは絶対に違うし。人の考えは流動的で、何かある度にアップデートされていくから、僕の歌を聴いて、なにか少しでも考えを共有することができたらいいとはいつも思ってる。
そのためには大きな表題ではなくて、極めて個人的な気持ちや出来事を歌った方が効果的だと思っています。

なるほど。先ほどからお話してる通り、今世界的にロックやバンドは下火であると言われています。山田さんは音楽家としてどう感じますか?

山田:僕はそもそもリスナーとして凄く沢山レコードを買うし、現行の音楽も相当チェックしてる自覚があるんだけど、それでも、フジロックサマーソニックに来るバンドのことを全然知らなかったりする。もう世界中にはどれだけ沢山の音楽があるんだろうかって思うよ。僕が聴いてるインディーミュージックは本当に僅かな部分でしかない。だからこそ、ある意味世界的なトレンドのことは他人事みたいに見ているのかも。僕は僕の好きなインディーを追いかけているだけで凄く楽しいし、ゴメスを聴いてくださる方もそうであったらいいなあと思う。自分の好きなものをとことん楽しんでほしい。

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